97年から書き続けたweb日記を、このたびブログに移行。
歌舞伎座「吉例顔見世大歌舞伎」夜の部を観た。
先週土曜日は、歌舞伎座「吉例顔見世大歌舞伎」夜の部。仁左衛門、藤十郎、幸四郎と大看板が出て、間に「新口村」を挟んで忠臣蔵物が二題。夕方から風が強く吹いて寒いので、タクシー移動。開場は4時ちょっと前。

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最初の演目は、「仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)」。五段目の鉄砲渡しの場、二つ玉の場、六段目の勘平腹切の場。歌舞伎三大名作といわれる文楽由来の1本だが、歌舞伎座では最近、あまり出ていなかったのでは。

五段目、六段目は討ち入りとは直接の関係が無く、勘平切腹の顛末。

「神田鶴八鮨ばなし」によると、「柳橋美家古」の加藤親方は、カンピョウ巻を「勘平」と呼んでいたが、巧く巻かないと海苔が切れる。そうすると「勘平さんは腹切りだよ。お前の海苔巻は勘平だ。腹ァ切ってる」と当時の弟子であった後の神保町の師岡親方を注意したとの事。

私が学生時代によく行った居酒屋の大将は、「早野さん」という客を「勘平さん」と呼んでいたっけ。昔は、市井の人にも有名な芝居の内容はよく知られていたということなのだろう。

舞台は雨の降りしきる京都山崎の山中。仁左衛門の艶やかな二枚目ぶりが実に格好良く自然に成立。不運と勘違いが重なり、あれよあれよと云う間に勘平が転落して最後の悲劇に至るさまは、さすがに古今の名作とあって物語の筋として良くできている。

脇を固める松嶋屋勢、秀太郎のさすがの貫禄も、別れの哀切を表現する孝太郎のおかるも良い。勘平に食って掛かる義理の母親、吉弥の錯乱も印象的。染五郎が白塗り着流しの見栄えのよい悪人、斧定九郎を付き合い、短い出だが鮮やかな印象を残す。

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ここで30分の幕間。三階の「花篭」は団体客が入っているようで大入り満員。インターネット食事予約でも「芝居御膳」は早いうちに完売になっていたので、三色丼を予約。ここは何によらずキチンとしているのだが、この日はさすがにキャパを超えたか、栓抜きと醤油差が置いていなかったので、持って来てもらう。別に大した迷惑でもなかったが、出る際に丁寧にお詫びを言われて返って恐縮。

幕間後は、「恋飛脚大和往来 新口村(にのくちむら)」

近松門左衛門の作。飛脚屋に養子に入った若旦那、亀屋忠兵衛を大看板の藤十郎。元気ですな。廓遊びに入れあげ、商売で運んでいた公金に手をつける。公金の「封印切」は死罪。恋人である傾城梅川が扇雀。傾城を廓から身請けしたが、盗んだ金も使い果たし、最後に故郷で実父を一目見て死のうかという道行。

深深と降る雪が背景として美しい。柔らかな太鼓の音で雪を表現することを考えた先人は偉いね(笑)

扇雀は、好いた男の父親の難儀に思わず走り出て助けるその素直な誠がよく出て美しくも印象的。親父役の孫右衛門は歌六だが、息子を思う親の情愛を演じて、爺様役がなかなか良い。実年齢では息子役の藤十郎のほうがずっと年上で親子ほど年が違うと思うが、爺様の役は爺様に見えるための演技が必要。80歳過ぎの本当にヨボヨボの爺様には、おそらく出来ないのでは。まあ極端に枯れた味が好きなら別であるが。この辺りも歌舞伎の不思議。

歌舞伎でいう上方の和事風味というのは、スパっと竹を割ったような所がなく、良く言えば、はんなりおっとりした風味。悪く取るとネチネチ、イジイジ、ウジウジしている訳であるが、藤十郎もやはり和事風味をきっちり演じる。鴈治郎にも引き継がれた成駒家の芸。雪の降りしきる中、おそらくもう生きては会えない親子の今生の別れが詩情に溢れて表現されて終幕。これもまた古今の名作。

最後の演目は、真山青果作の新歌舞伎、「元禄忠臣蔵 大石最後の一日(おおいしさいごのいちにち)」。同じ幸四郎で以前観た際のおみのは孝太郎。今回は、児太郎が実に見事に演じてみせた。

討ち入りをした時点で死を賜るのは覚悟の上。驕ることなく初一念を貫いて全員を静かに死なせようと心を砕く大石内蔵助。「会わせては未練が残る。静かに死なせてやってくれ」という武士の道理と、「磯貝が自分をだましたのかどうか、それだけが聞きたい」という「おみの」の激しい女の情念がぶつかり、女の一念に武士の大石内蔵助が言い負かされてしまう台詞劇が一つの見どころ。

大石内蔵助を幸四郎、磯貝を染五郎、殿様の御曹司細川内記を金太郎と高麗屋三代が揃って同じ舞台を踏む。金太郎は、弥次喜多で團子と共演すると、相手の達者さに食われた印象があったが、大名の御曹司役ではピッタリはまっている。まあ実際に将来の高麗屋を背負って立つ正真正銘の御曹司であるから、はまるのが当たり前といえば当たり前か(笑)

磯貝が自分の琴爪を持っていてくれた事で明らかになった真心。「偽りも誠に返してみせる」とは、磯貝が静かに死ねるよう自分が先に自害する事であった。児太郎「おみの」の切ない女心が涙を誘う。全ての心残りは霧散し、磯貝も大石も「初一念」を貫き、堂々として死に向かうラストは、潔くも清清しい。打ち出しにも実によい演目。

彌十郎の堀内伝右衛門も情があって印象的に成立。仁左衛門の荒木十左衛門。出番は短いが、吉良の家もまた断絶になったと知らせてやり、赤穂浪士を安心して死なせてやる、人情味溢れ、しかもキリリと屹立した良い役。この演目も史劇の傑作であり、大看板出演の重厚な舞台を十分楽しんだ。打ち出しは9時を若干過ぎたところ。

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「新橋鶴八」訪問。
火曜日は会社帰りに「新橋鶴八」で一杯。早めに入ったが、カウンタは恰幅の良いお客が一人だけ。まず菊正の冷酒を貰ってつまみから始める。お通しはスミイカのゲソ。もう結構肉厚になった。

熱燗を飲んでいた隣の恰幅良い客が、バイトの女性に「お冷」と頼むと、冷酒が出てくるという緊急事態発生(笑) 石丸親方バイトを叱る(笑) 後から入ってきた私が冷酒を頼んだので混乱したか。

まあ、意外にこの辺りは難しくて、ただ「ひや」というと元々は常温のお酒が出てくるのが定法。しかし最近は「冷酒」の意で取られることもある。「お冷」と「お」が付いただけで勿論水の意味になるのだが、最近の若い子には通じなくなっているのかな。確かに外国人に「ひや」は酒で「おひや」は何故水なんだと聞かれたら解説が難しい。

私自身は、混乱が嫌なので、どこの店でも注文する時には、「お酒を常温で」、「お酒の冷たいの」、「水をください」と言う事にしている。

白身は種札にタイとある。時折置いてあるのは知っていたが実際にお目にかかるのは今までほとんどなかったな。「佐島の鯛ですから旨いですよ」と親方。身は活かっており薄めの切りつけ。皮目は軽く火が入っているとのことで、歯ごたえ良く身肉との間にしっかりと旨みあり。

昨日、タクシーの運転手から「トランプは帝国ホテルに泊まっており回りは封鎖だらけで交通渋滞がひどかった」と聞いた事など親方と雑談していると、隣の恰幅良い客は、なんと商談で上京して帝国ホテルに宿泊中で、昨日は部屋まで100メートルばかりの間に4回も検問があり、どこに行く、誰に会う、何の話をするなど聞かれて往生したとのこと。大迷惑ですな(笑)

塩蒸し。歯応えがあり、実に旨みが濃い。ブリは脂の乗った腹身の部位をえぐるように切りつけて。噛み心地が良く、脂には癖が無く、身肉の旨みあり。トロトロに脂が乗るよりも刺身で食するなら、この辺りが程よいかもしれない。

今日も7時には満席だそうで、早めに終わるつもりが、隣のお客が結構話し好きで進行が若干遅めになったが基本的にはまったく問題なし。漬け込みのハマグリもつまみで。旨いねえ。

この辺りでお茶に切り替えて握りに。中トロ2、コハダ2、アナゴ2、カンピョウ巻は半分にしてもらった。鶴八伝来の仕事を施した種はどれもいつも通り旨い。コハダとアナゴは他店の追随を許さない揺ぎ無い仕事。米の旨みを感じるフックラした酢飯もいつもながら。「九州場所、気を付けて行ってらっしゃい」との石丸親方の挨拶を貰って、満ち足りた気分で勘定して店を出た。



「ブレードランナー2049」と、それにまつわる妄想的感想。
先月28日の土曜日に「ブレードランナー2049」を2Dで観た。前作も大ファンである。



「2049」前日の夜には、「ブレードランナー・アルティメット・エディション」DVDを引っ張り出して予習。(そう、そんな物も持ってるのでした(笑):このDVDの感想はこちらの過去ログに)

前作「ブレードランナー」は、酸性雨が降る未来社会、しかし古いアメリカのハードボイルド、あるいはフィルム・ノワール的な背景描写。私とは誰か、そして何処へ行くのかという形而上学的な問い。デッカードと人造人間であるレイチェルの恋。冒頭のLAのシーンから、映像はとても美しくも衝撃的で、しかし物語は叙情的だ。

先週も時間の空いた時に「2049」二度目を見に劇場まで。あと一回くらい見ても楽しめるが、後はメイキングなど入ったDVDボックス発売を待つか。

長尺だが全く飽きない。前作へのオマージュに満ちたスタイリッシュな映像と音楽。自我と記憶と魂、そして生命の再生を巡る旅。力強く、懐かしく、詩情に溢れ、哀しい。こんな続編がよく作れたと感嘆。

ライアン・ゴスリングは「ドライヴ」にもあったあの哀しい瞳が印象的。ドゥニ・ビルヌーブ監督は、「メッセージ」の叙情に溢れた映像に感心したが、本作でもその映像美は実に良い。

前作の「ディレクターズ・カット」でリドリー・スコット監督が描こうとした「デッカードとは何者か」という伏線も(私の考えるに)見事に回収されている。原作、P・K・ディックの小説に流れるトーンにより近い思索的な仕上がり。前作の大ファンならきっと気に入るのでは。

ただ、前作を見ずして、初めて本作だけ見る若者には、何のこっちゃ分からんかもしれないという危惧も(笑) 前作をチェックしてから観るなら、私の個人的好みでは「劇場公開版」。ハリソン・フォードのヴォイス・オーバー(モノローグ)が入り、レイチェルとデッカードを乗せたスピナーが壮大な大自然の景色の中を飛んでゆくラスト。「レイチェルには4年の寿命は設定されていなかった」とハッピーエンドを語るデッカード。この空中撮影はスタンリー・キューブリックの「シャイニング」、オーバールック・ホテルへと向かう冒頭部分で使わなかった余りのフィルムの再利用だったとか。

さて、ここから先はネタバレを含む感想。予備知識無しに観たい人は、スキップしたほうがよいかもしれないのでご注意を。

世界大戦や気候変動を経た未来社会、カオスと化したLAのダウンタウン。しかし古いアメリカのハードボイルド物のようなインテリアや内装という映像のトーンは前作を踏襲。

前作のメイキングDVD「デンジャラス・デイズ」を見ると、冒頭シーン、鍋でなにやら煮込んでいる農家にレプリカントが帰ってきて、ブレードランナーに撃たれるというのは、前作で絵コンテも書かれたが撮影されなかった初期のアイデア。

ブレードランナーであるゴスリングは「Skin Job(人間もどき)」と侮蔑され差別を受けるレプリカント捜査官。AIが操作するプロジェクションされた3次元ホログラムの恋人だけが話し相手というところが切なくも哀しい。この辺りは前作に出てきた、早老病で地球外に移住できなかったセバスチャンが投影されている。

LAに降る雪も「ブレラン」前作へのオマージュでは。「リドリーが『雪がほしいな』というと、雪はすぐに降るのさ」とプロデューサーが「デンジャラス・デイズ」で語っていたものなあ(笑)

「強力わかもと」が出なかったのはちょっと不満(笑)ショーン・ヤングのシーンは、前作の映像に沿ってCGで復元していると思うが、実に美しい。「ブレラン」1本でスターになったが、ちょっとおかしくなって映画界を去ったと聞いたけれども、本作のクレジットにも登場している。

前作と同じ俳優で、元デッカードの同僚「ガフ」が出ていたのは二度目の鑑賞で気づいた。折り紙やら「シティ・スピーク」やらヒントがあったのに見逃していたな。

ここから先は私の勝手な妄想なので、観た人もあまり気にしないようにお願いしたいが、「デッカードがレプリカントか」という疑問については、一部あいまいにボカされているが、既に答えは出ている。レプリカントでなければ、レイチェルとの子供がレプリカント同士から生まれた「奇跡」である事にならない。そして、レプリカント同士を恋に陥らせ子供を作る計画は、おそらくタイレルによって計画されていた。

そして、なぜウォレス社の最新鋭レプリカントである「Luv」はデッカード本人をオフ・ワールド・コロニーに連れ去ろうとするのか。ウォレス博士は付いて来ていない。結局撮影されなかった前作「ブレラン」の絵コンテでは、タイレル博士自身は既に亡くなっており、ロイ・バティに殺されたタイレルはレプリカントだったというもうひとつの結末が準備されていた。

これを踏まえるなら、本物のウォレス博士はオフ・ワールドに移住しており、地球に残ったウォレスは、あの特有の目の光り方で分かるように記憶を移植されたレプリカント。そして、レプリカント同士の結婚で再生の奇跡が生まれたからこそ、デッカードを標本として、本物のウォレス博士のところに連れて行こうとしているのではないかと思うのだが。

まあ、この辺りは伏線を見落としているかもしれないし、ご自分でご覧になった皆さんが妄想をご自由にどうぞ(笑) あとはDVDのメイキングでも待ちましょう(笑)

まあ、しかし実に面白い映画体験であった。



歌舞伎座で、「吉例顔見世大歌舞伎」、昼の部を観た
先週金曜の祝日に、歌舞伎座「吉例顔見世大歌舞伎」昼の部。昔は11月に次の年の役者との契約を行い、こんな出演者で1年間興行をやりますよと宣伝したものらしい。そうか、もう11月なんだ。

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昼の部は、高麗屋若旦那、吉右衛門と播磨屋軍団、菊五郎劇団と豪華な布陣。夜は夜で仁左衛門、藤十郎、幸四郎と大看板が勢揃い。しかしどの日も一等席はまだ空きがあり。通は3階席で観るからかな。

昼の部最初は「湧昇水鯉滝 鯉つかみ(こいつかみ)」

染五郎は、襲名の前最後の歌舞伎座登場。宙乗りもあって最後は本水。鯉の精は影が障子にプロジェクションされる。立廻り中の早変わりも随所にあって、染五郎は大奮闘。「かぶく」大スペクタクル。ラスベガスでも公演したニュースを観たが、歌舞伎のケレンに満ちて、外国人にも受け入れやすい演目。昔の芝居小屋では本水を使った演出は夏の涼を取るために良い趣向だったのだろうが、11月に本水はちょっと寒々しいね。お湯を使う訳にも行かないだろうから、染五郎も風邪を引かないとよいが。

随分疲れると思うが染五郎は夜の部にも出演が入っている。役者というのは大変ですな。

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幕間は35分。本水の片付けがちょっとかかるのだろうか。顔見世芝居御膳なるもので一杯。なかなか豪華なり。

次の演目は、人形浄瑠璃から移された丸本物。「奥州安達原(おうしゅうあだちがはら)」。いわゆる「袖萩祭文」。

「奥州安達原」は前半、袖萩の悲惨と悲しみに心打たれる。子役も好演。黒子は白衣装で出るのだが、ゴザを持ってきてもらって子役が思わず「ありがとうございます」とばかり小さくお辞儀。本来は黒子は舞台には存在しないお約束。ある意味トチリだが、ちゃんと躾けられた良い子なんだなと微笑ましかった。

吉右衛門が上使の桂中納言、実は安倍貞任。花道で、台詞の途中で思わず武士の台詞になり、また公家に戻るのは初代吉右衛門の工夫だという。

播磨屋では「双つ玉(ふたつだま)」といって袖萩と貞任を二役でやる場合も多かったというが、前半のしどころは殆ど袖萩だから、元気者が貞任だけでは力が余ったのでしょうな。

今回は吉右衛門は貞任だけ。袖萩は雀右衛門が演じて別れの場面もあり。時代物らしく、最後は戦場での再会を約して別れるお約束。筋書きを読んだ時は、登場人物の関係が複雑で、あまり面白くない演目かと思ったが、死を賜った父親の最期に一目だけでも会おうとやってくる娘。勘当され落ちぶれ果てて盲目の瞽女になった娘が雪の中で奏でる祭文の哀れ、そして自害する決意が実によく描かれてカタルシスあり。興味深く見物した。

そうして吉右衛門の登場。旗を大きく客席に振るケレン、衣装がぶっかえりになり大きく見得を切る吉右衛門は、さすがに当たり役、時代物の風格あり。

最後は、「雪暮夜入谷畦道(ゆきのゆうべいりやのあぜみち)」。いわゆる「直侍」。以前染五郎で観たことがあるが、雪がしんしんと降り積もる江戸入谷の風情が良い。蕎麦屋夫婦も按摩も、雪の中を行き交う暗闇の丑松も、三千歳の情愛も、そして主役の直次郎も、江戸世話物の情緒にあふれている。

菊五郎が、片岡直次郎を熟練の芸で演じる。細かい型や段取りを感じさせずに、まさに目の前に粋な江戸の男が現れるというのが、やはり伝承された家の芸というものなんだなあ。追っ手を交わして一人落ち延びて行く。また会えるやら会えぬやら。世話物によくある切りだが、これまた冬の夜に、世の無常を感じるラスト。。

打出しで外へ出るとまだ明るく、勿論雪は降っていないが冬の寒さ。「直侍」観ると、やはり帰りは蕎麦屋だ。松屋のレストラン街、蕎麦屋に入り、熱燗で「天」。普段はかけ蕎麦は食さないが、牡蠣南蛮蕎麦など。しかし歌舞伎座帰りらしい客はあまり居なかったような。落ち延びる必要はないのでのんびりとw

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「新ばし 笹田」訪問。
月曜の夜は久々に「新ばし 笹田」。

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台風は気にせずに先週予約したのだが、この日は入店してみると私が最初の客。笹田氏によると、もうちょっとしたらあと1組。そして、8時過ぎに「しみづ」の親方夫妻から予約が入っているだけとのこと。店は笹田ご夫妻に弟子3名で回しているので、少なくとも8時までは客のほうが少ない。いつも部屋まで満員の大盛況なのに、実に珍しい出来事である。台風の影響か。

しかし店が暇だと笹田氏にあれこれ料理や素材の事など聞いたりの雑談ができてこれはこれで楽しい。仕入れの方は信頼関係のある仲卸に先週からずっと頼んでいたので大丈夫とのこと。

最近「しみづ」さん行ってますかと問われたが、当日ではあまり予約が入らないからなあ。「新橋鶴八分店」の話もすると、「笹田」のお客さんでも結構「分店」に行ってる人が多いようだ。

松茸の季節を吹っ飛ばしてしまったなと残念がると、韓国産ですが後でちょっと出ますよと。

日本産松茸は今年はダメで、長野産はほとんど市場に出回らず、しかも高い物が多く、キロ10万円以上した時もあったとか。反面、鱧は今シーズン脂が乗って良いものが多かった。ただ年々、魚の旬や質のバラツキが大きくなってきているようだ。

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カラスミの仕込み状況など見せてもらう。冷蔵庫でも水分は抜けるのだが、やはり外で感想させるほうが早いのだとか。去年の物はあまり質が良くなかったが、今年は良い。ただ出始めを外すと、どんどんと質が悪くなる為、早く仕入れるのが肝心。カラスミだけは支払は年明けにしてもらっているのだとか興味深い話も。

お酒はまず、醸し人九平次大吟醸。しっかりした米の旨みに爽やかな酸味あり。

まず、アジなめろう。アジは肉厚で脂が乗っており、しっかりした味噌の味付けに酒が進む。小さな器で供されるすっぽん出汁の茶碗蒸し。上質のすっぽん出汁の澄み切ってキラキラ光るような旨さに感嘆。

押し寿司は、焼き鱧と鯖と一切れずつ。鱧の香ばしさ、脂の乗った鯖のネットリした旨みが関西風のやや甘く柔らかい酢飯に溶け崩れる。握り寿司とはまた違った旨さ。

万願寺唐辛子とじゃこの煮物。定番の壬生菜と油揚げの煮物は、ほっこりと優しい出汁の味に炊き上がっている。

お酒は、伯楽星純米吟醸に切り替え。くどくないすっきりした旨み。

お造りは、ブリ、ヒラメ、ツブ貝。ツブ貝は癖のない甘み。塩と酢橘で。青森のヒラメは塩で食しても身の充実した旨みが良く分かる。ブリは北海道余市。天然独特の爽やかな旨み。

椀物は、松茸、しめじ、鱧の土瓶蒸し。岩手の天然しめじからは秋の野趣にあふれた出汁が出る。鱧の上品な脂も旨い。

焼き物はかますの幽庵焼。ふっくらして脂も乗った分厚い身肉にはしっかり火が入り、皮目との間にまた旨みが凝縮している。むかご 栗などあしらいにも秋の雰囲気。むかごは蒸して皮を剥いてから、もう一度味を含ませるために炊くのだとか。何の仕込みを聞いても、きちんと手がかかっている。

煮物は、炊いた小蕪に、銀杏 エビ 松茸の吹き寄せ葛餡をかけて。これまた秋の香り。ここで食事の準備となる。

一番最初に、ご飯の時に秋刀魚出しましょうかと聞かれたので所望。私自身はこの店で秋刀魚を食するのは初めてだが、何年か前からこの時期だけ、試しに出したら評判が良いので、質の良い秋刀魚が入った時だけご飯と一緒に供するのだとか。

お新香に赤出汁、ちりめん山椒にイクラ醤油漬けが出て、これだけでも炊飯土釜で炊いた炊き立てつやつやのご飯のおかずには十分過ぎるのだが、ここに秋刀魚登場。

今年は不良で目黒の秋刀魚祭りでも気仙沼に秋刀魚が揚がらず、去年の冷凍を使ったらしいが、この秋刀魚は勿論生で、上質で結構高い物なのだとか。強火の遠火で22~23分以上火を通し、腹骨を焼き切りワタはホクホクに。笹田氏は「僕がよく焼いた秋刀魚が好きなので」と焼き方を解説。確かに腹の骨はまったく当たらない。炊きたてのご飯と食すると、まさに至福。秋刀魚は西新橋に限るな(笑)今まで食べた秋刀魚定食の中で一番旨かったといっても過言ではない。

2500円くらい取ってランチで秋刀魚定食出したらと勧めたが、夜の仕込みで手一杯で、本来はまかない用の一品なんだそうである。こんなまかないなら毎日でも良いなあ。

最後は定番、番茶から煎茶に切り替えて、冷製の白玉ぜんざい。

海老蔵も松山ケンイチも元気に頑張っている。春に入った新人も真面目に、全員が競うように仕事しているのが素晴らしい。笹田氏の指導が行き届いているのだろう。海老蔵に聞くと、彼の兄貴はまだ銀座「鮨竹」で弟子をしているとのこと。

気をてらう目立つ素材や料理は無いが、笹田氏の人柄がしのばれる、素材を選び抜いた真面目な仕事。どれも素晴らしい。のんびりと一夕の素晴らしい食事を楽しんだ。ご夫妻の見送りを受けて満ち足りた気分で家路へと。


西大島「輿兵衛」訪問。
昨日の土曜日は、「ブレードランナー2049」を観た後で、西大島「輿兵衛」に。台風続きで寿司屋も大変だろうけれども、先週の火曜日に予約してある。

しかしこの夜は、地下鉄が雨のせいか遅れており、7時に10分ばかり遅刻。やはり余裕持って出ないとあきませんな。カウンタはほぼ満席になる模様だが、到着済はまだ2名のみ。電車は新宿線しかアクセス無いものなあ。

取敢えず本日の大吟醸を一杯。「東一」。軽いふくよかな旨味がスッと喉に抜けて行く癖の無い酒。親方に聞くと前回の台風直撃の時はさすがにキャンセルが多く閉店したと。まあそれはそうでしょうな。土曜にしてよかった。

まず牡蠣のスープが供される。寒い時期はこのスープが至福。程なくカウンタも満席に。賑やかな女性3人組がおり、親方も調子良く飛ばしている。この店では知らない客同士でも、親方の冗談で一緒に盛り上がったりするが、時にはあまり冗談の相手しないでゆっくり飲めるのも、これはこれで結構(笑)

まず何時も通りお通しの一皿が供される。ホタテ煮浸し、海老頭ヅケ、中トロ炙りのヅケ、ヒラメ甘酢ヅケ、新イカゲソ。どれも結構。酒が進む。次は十四代本丸。ふくよかな旨味が濃い。そして握りに以降して後は、醸し人九平次。こちらは爽やかな酸味が立って、また飲み口が変わってよろしい。

適当な所で他のお客さんと同じタイミングで握りに。何時もながら固めに炊かれた酢飯は米の旨味があり、他の店には無いちょっと不思議な香ばしいような風味を感じる。炊き方の妙か、酢に違いがあるのか、あるいは合わせ方か。この辺りは企業秘密で、親方に聞いても「中毒になる薬を入れてるんです」と言われるだけだからなあ(笑)基本的には、魚の仕事とピッタリ合うような酢飯を作るのが寿司仕事だという事のようである。

握りは程のよい大きさ。ホロホロ溶け崩れるような酢飯を喜ぶ人も多いようだが、ここの店の酢飯は仕事を施した寿司種と一緒に噛み締めると口中で崩れて行く美味さ。鶴八系の酢飯にも近いが、この店にしかない寿司種仕事とのコンビネーションで、オンリーワンの魅力あり。

マグロ赤身ヅケ、艶々した新イカのヅケ。酢飯の旨味が良く分かる。ヒラメ甘酢、胡麻醤油づけは、浅葱と一味唐辛子と薬味を変えてアクセントに。ここの胡麻醤油もいつも感心する。

巻に近い大きさの海老は、甘酢に潜らせオボロをかませる古式の仕事。シマアジもこの店のスペシャリテ。炙って余計な脂を落とし、香ばしさを加えたシマアジを薄く切って薬味も噛ませて3枚つける。北寄貝は色味からして軽く湯を通してから甘味に漬けてあると思うが、これまたこの店でしかお目に掛かった事のない酸味と甘味がバランスしている。

この辺りで、これまたこの店のクライマックス。光り物が脂の薄いものから濃いものへとグラデーションをつけて供される。キスは癖のない淡い旨味。コハダはやはり寿司の為に生まれたような魚。サバは甘い脂が乗る。最後はイワシ。脂の乗った分厚いイワシを〆ると脂と旨味がまるで蜜蝋のように固まる。削ぎ切りにして3枚つけて供するが、口中でイワシの身肉と脂が酢飯と一緒に崩れてゆく至福。これも他の店でお目にかかった事は無い。

ここから煮物。ハマグリは古式を残す風味の良い煮ツメで。このツメがまた独特で旨い。アナゴは爽煮風に白醤油で煮るがパサパサではなく身が厚くトロトロに脂が乗っている。鶴八系とはまた違った、しかしこの店にしかない美味さ。最後は小柱をすり入れて焼いた卵焼きを酢飯抜きで貰って一通り。

食欲旺盛な人ならここから更に気に入ったものを再注文するお代わりタイムに突入するのだが、私は酒も飲んでいるしこの程度で満腹。勘定をして貰い、大概一番先に店を出る習慣。親方と女将さんに礼を言って店を出る。他の何処にも無い、輿兵衛だけの寿司。オンリーワンの魅力を堪能。雨は振っていたが大通りに出るとラッキーにもすぐタクシーが捕まり、心地よく帰宅。映画もよかったし寿司もよかった素晴らしき日。



大相撲秋巡業、「なにわ場所」観戦写真日記
10月22日は大阪に遠征して大相撲「なにわ場所」巡業を観戦。春先だったか、チケットぴあから先行抽選のメールが来て、何の気無しに申し込んだら溜席が当たった。折角なので一泊で大阪遠征することに。

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前日は新大阪構内の串かつ屋で一杯。ソース二度つけ厳禁なり(笑) キャベツがパリパリして旨い。芋焼酎を飲み過ぎたか、朝はちょっと寝坊して、会場のエディオン・アリーナに入ったのは9時過ぎ。もっともまだ幕下以下の稽古中であるから、まだまだ早い入りのほうかな。席は西の2列目で、眼前に力士が立ち、実に迫力がある。但し巨漢が前に立つと土俵が全く見えなくなる(笑)

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左手前は松鳳山。昔、朝青龍に出身を聞かれ「福岡です」と言うと「違うだろ!」と怒られた由。確かにパシフィック・アイランダーを思わせる褐色の肉体。

最初は幕下の稽古だったが、段々と幕内力士が入場。日馬富士が入って来るとひときわ盛大な拍手。矢後どんが水をつけようとしたら、東龍に何やら指導しているので、暫く待機しているのも巡業でしか観れない風景。

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日馬富士は入念な四股と筋トレの後、誉富士に胸を出させてぶつかり稽古。その後、白鵬はぶつかり稽古で貴景勝に胸を出し、引きずり回してさんざん「可愛がる」。前に町田巡業を見た時も、貴景勝をドロドロにしていたし、好きなんだなあ(笑)

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ちびっ子力士との稽古では豪栄道も登場。賑やかに会場が沸く。稽古をつけた後の引っ込み、花道から横に逸れて客席に座り込み、和む勢と正代。いかにも巡業だなあ。

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相撲甚句も巡業名物。お世話になった勧進元やご贔屓、当地のお客様に感謝を告げて多幸を祈り、また会えるやら会えぬやらと去って行く。興行が再び当地に戻ってきたとて、それまで自分が現役の力士で居る保証は無い。相撲取りの哀感が出た最後の甚句がまた良い。

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なにわ場所の初っ切りコンビは今まで見た中でもかなり面白かった。わざと溜席にかかるよう、盛大に塩撒きするから、前列では塩だらけになるのは困りものだが、まあ、お祓いと考えれば吉(笑)

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十両土俵入りも本場所に比べて和やか。天風は、足を踏み外した振りをして「危ない!」と前列の観客を驚かせる。あまりふざけると怪我するぞ(笑) 安美錦は自分の息子を抱いて土俵入り。お揃いの化粧廻しなんですな。

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巡業は力士同士がふざけ合ったり、赤ん坊を抱いて土俵入りしたり、花相撲独特の長閑な雰囲気が良い。十両の取組、大砂嵐は溜まりに座っても、後ろの観客に話しかけたり、デジカメを拝借して自撮りするなど、和やかにふざける(笑) 大砂嵐は、この後勝ち残りで天風に水をつける時、自分で飲んでそのまま花道を下がる。天風唖然。巡業だなあ(笑) 力水が無かったせいか、天風は寄り切られる。

力水については、ふざける力士が続出。阿武咲は勝ち残りで北勝富士に水をつける前、柄杓の水に塩をひとつかみ投入してニヤリ。北勝富士は知らずに一口飲んで渋い顔。

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豪栄道は、土俵入りに子供を託されて出て来たのは良いが、子供のパンツと廻しがずれているのに気づき「アレ? なんやおかしいぞ!」と慌てる。土俵入りの列は進む。しかし前に居て気付いた照ノ富士が、手を差し伸べて手伝って間に合った。最後の「これで大丈夫や~」という豪栄道の笑顔も良いですな(笑)

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子供を抱いているので、土俵から降りる時も慎重に(笑)

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稀勢の里の土俵入りは久しぶりな気がする。九州場所で復活してほしいなあ。

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日馬富士は赤ん坊を託されて土俵入り。土俵入りの最中は露払いの力士に預けるのだが、場内にズッとギャン泣きが響き渡り、観客が笑って和む。まあ確かに怖かったろうが、親戚中で、いずれ貴重な語り草と思い出になるだろう。

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やはり花相撲だから、取組前の力士の顔も和やか。怪我しないようにドスコイドスコイとやって呆気無く勝負がつく。

隣の席には若い美人が一人で座っており、稽古の時も土俵入りの時も、蒼国来がデレデレした笑顔でこの女性の顔を覗き込む。蒼国来の彼女なのかなと思っていたら、中入りの時に呼び出しが隣に、「お客さん、蒼国来関のお知り合いですか?」と声を掛けにきた。ああ、やっぱり彼女だったんだなと思ったら、「違います」と驚愕の返事。じゃあいったい何だったんだ(笑)

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巡業では琴バウアーもちょっと控えめ 琴勇輝の「ホゥ!」も巡業では封印していない。ちょっと懐かしかった(笑)

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これより三役揃い踏み。四横綱が揃ったが日馬富士は割には入らない。照ノ富士は巡業復活したが、九州場所での活躍を祈る。そして白鵬と稀勢の里の取組も本場所ではまだ実現していない一番。九州場所では見たいものだが。

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「なにわ巡業」も終了。台風が近づいているので急いで帰京。

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大急ぎで高島屋地下で鰻弁当を購入して一路新大阪へ。関西在来線は既に台風の影響あるも、大阪地下鉄と新幹線は大丈夫であった。実に面白かったなあ。




新橋演舞場で「ワンピース」を観た。
土曜日は、新橋演舞場でスーパー歌舞伎II「ワンピース」を観た。

猿之助が先週、舞台の最後、花道すっぽんからの引っ込み時に衣装が昇降機構に巻き込まれ、左腕を複数個所開放骨折するという不慮の大事故に巻き込まれ、急遽、尾上右近が代演に。しかし、元々若手育成の為に、同じ演目を今月何回か、尾上右近主演で「マチネー」として公演する段取りになっており、右近はきちんと主役のルフェイ/ハンコックを稽古していた。これがなければ公演全体がキャンセルになっていただろう。なんという不幸中の幸い。

猿之助が怪我をした舞台。偶々、花道すっぽん近くに居た観客のtweetでは、異常を感じさせるような気配は何も無かったと。大声や悲鳴を花道下から聞かせては舞台が台無しになる。おそらく猿之助は、腕が機構に巻き込まれて大怪我しながらも、歯を食いしばってカーテンコールが終わるまで耐えて居たのでは。観客は、何故カーテンコールに猿之助が出て来ないのか不思議に思いながら打ち出しとなり、劇場の外に出ると既に救急隊が駆けつけていたのだとか。猿之助も、しかし、恐ろしい役者魂である。

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新橋演舞場前で開場を待っていると、たまたま通りかかった初老の夫婦あり。
「ワンピースて何だろう?」
「ファッションかな?」
「さあ?」
「お笑いコンビにいなかった?」
「居た気がする」
と、どんどん推測が的外れにw

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3列目だったので、座席の背には最初から、本水を使った演出のためにビニールが。本水も紙吹雪も、尋常では無い量で、宙乗りのタンバリンの演出もあり劇場は大盛り上がり。

原作も未読だったが、ベストセラーだけあって物語や人物設定に力あり。スーパー歌舞伎にした猿之助の演出力にも感嘆。いきなり全公演の代役となった尾上右近に課せられた現実世界の物語は、彼の歌舞伎人生をも変える重みがあるかもしれない。大健闘であり、観客の大歓声は実に暖かかった。

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公演は大歓声。右近や全てのメンバーが、猿之助不慮の事故で、どれだけ大変かは観客もわかっている。しかし流石に公演を重ねて練られた舞台。よく出来ており実に楽しんだ。

尾上右近の新しい冒険の始まりに立ち会って祝福しているような気分。右近はカーテンコールで拳を握りしめ、押忍とばかり気合いを入れた。大変だろう。しかし途轍もない勉強になる。事情を知る観客も、猿之助に届けとばかり、万雷の暖かい拍手。猿之助の早い復帰を祈りたい。

猿之助休演に伴い「ワンピース」公演は、通常料金から2000円の返金が可能。しかし尾上右近初め、全メンバーがなんとか穴を埋めようと奮闘した公演は十分楽しんだ。別に返金して貰う必要は無い。ただ、返金を求めなかった客の分は、松竹がそのままポケットに入れず、猿之助復帰と頑張ったメンバーに還元してもらいたいねえ。


歌舞伎座、「芸術祭十月大歌舞伎」、昼の部を観た
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先週の日曜は、芸術祭十月大歌舞伎、昼の部。「極付印度伝 マハーバーラタ戦記」を通しで。日印友好交流年記念と銘打った新作歌舞伎、芸術祭参加公演。開演前に二階をブラブラしているとサリーを着た本場の人も。インド大使館も後援となっており、館内のチラシ置き場には、歌舞伎座付近のインド料理屋地図が。

そういえば、歌舞伎座横、「ナイル・レストラン」は歌舞伎役者ご用達の店であるが、オーナーのナイルさんも、日印友好の為、インドの神々で出演すればよかったのにな(笑)

世界三大叙事詩であるインドの大作「マハーバーラタ」に題材を取って見事に歌舞伎化して、長い上映だがまったく飽きない。先月見た野田版「桜の森の満開の下」に歌舞伎感が大変薄かったのに比し、これは新作ながらよく出来た歌舞伎だという印象。構想にも長い時間をかけたらしいが、演出の宮城聰や脚本の青木豪に、歌舞伎へのリスペクトと歌舞伎の演出を活かす知恵がキチンとあったのだろう。そして荒唐無稽な物語でも歌舞伎に仕立ててしまう菊五郎劇団の力。

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仮花道が設置された両花道の壮大な舞台。一番最初の開幕、定式幕の引き方が尋常でなくゆっくりなのは悠久たる時間を流れるガンジスの流れの如し。幕が開くと、全て金ぴか、絢爛豪華たる衣装でインドの神々が鎮座しており、なかなかの圧巻。両花道を使った「渡り台詞」「言い立て」の演出も、物語に大きさを与えている。

太陽神、左團次は最初は花道から出て、その後もすっぽんから何度か出現するのだが、顔がなかなか独特で面白い。

神々や戦士の格好はやはりどこかインド風なのだが、赤姫や江戸町人風も大勢出てきて、インドと歌舞伎が違和感無く融合しながら舞台は進む。随所で歌舞伎独特の人物造形と、インド叙事詩の登場人物が違和感無く交錯する部分は、やはり歌舞伎という表現の包容力を感じさせる。

もっとも、芸能全般、演劇や舞踊、歌唱や楽器演奏と云った人を魅了するテクニックは、シルクロードの昔から「芸能者」「かぶき者」によって国境を越えて伝えられて居ただろうから、インドの舞踊や芸能と歌舞伎に不思議な親和性があっても納得できるところ。仏教だってはるばる日本にまで来ている。

下座音楽も歌舞伎らしく劇にマッチしているが、上手床のインド風パーカッション軍団も実に印象的にリズムを刻み、物語に異国情緒を与えている。

シリアスなテーマや所作事、舞踊も内包され、壮大な歌舞伎劇狂言として、そしてドラマとしてきちんと成立しているのも見所。七之助演じる鶴妖朶(づるようだ)王女は、原作では王子らしいが、七之助に当てて女性に変更。「阿弖流為」や「桜の森の満開の下」同様、ミステリアスで突き抜けた強く妖艶な女性を演じた時の七之助は素晴らしい。そして主人公である菊之助の迦楼奈(かるな)も凛々しく高貴で、真っ直ぐで約束を違えない気品ある善人を見事に造型。無垢な善人であるが故に陥った闇も鮮やかに演じてみせる。

彦三郎の百合守良王子(ゆりしゅらおうじ)、坂東亀蔵の風韋摩王子(びーまおうじ)は、口跡鮮やかで印象的。御大菊五郎が那羅延天(ならえんてん)/仙人久理修那(くりしゅな)で長丁場を随所でしっかりと絞める。

武道大会の演出、象やチャリオット戦車等の歌舞伎版ギミックもよく出来ていた。

昼の花篭御膳には、カレーとナン添え。やはりカレーが無くては。この一手間が偉い! 本当はナイル・レストランが出張して、ムルギランチを営業すれば日印友好にはもっと良かったのになあ(笑)

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大詰めで幕が降りた後、一度だけカーテンコールがあった。これもまた、普通の歌舞伎をちょっと逸脱するが違和感無し。素晴らしい歌舞伎公演であった。


歌舞伎座、「芸術祭十月大歌舞伎」、夜の部を観た。
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先週の土曜日は、芸術祭十月大歌舞伎、夜の部に。最初の演目は、坪内逍遙作「沓手鳥孤城落月(ほととぎすこじょうのらくげつ)」

初演からもう100年経つのか。大阪夏の陣、落城を目前にした大阪城内。淀の方を玉三郎が初演で。

元々は派手な立ち回りなどが付いていたらしいが、原作には無かったとの事で今回は削除。全体として密室の台詞劇になっている。玉三郎は大向こうの会に、今回公演は大向こうを掛けないよう頼んだそうで、大向こうは一切無いちょっと歌舞伎としては珍しい舞台。逆に密室の心理劇に緊迫感が増す。

勘三郎は、著作読んでも大向こうには、結構あれこれ意見したらしいが、頻度から言って、やはり立役の方が声が掛かるのを歓迎する傾向があり、女形は掛け声を「うるさいわねえ」と思っているんじゃ無いかな。いや、待てよ、歌右衛門は大向こうの山川静夫と親交があって本も一緒に出していた。必ずしもそうでもないのか(笑)

落城の寸前、栄華から絶望へと突き落とされた淀の方の、怜悧で高貴な、しかし哀しい錯乱が主眼。全てに疑心暗鬼になり、周りを責め立てる一種鬼気迫る迫力を、玉三郎が見事に演じる。児太郎演じる常盤木も短い出だが印象的。

演者も殆ど女形で、極限状態での心理を描く台詞劇。普通の歌舞伎の様式美とはまた違った面白さに仕上がっている。やはりオッサンの胴間声は似合わないかな(笑)

ここで30分の幕間。花篭で芸術祭御膳なるものを。

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次の演目は、「漢人韓文手管始(かんじんかんもんてくだのはじまり)」 唐人話

実際に江戸時代に起きた、唐人殺人事件を元に脚色した脚本。歌舞伎座では四半世紀ぶりくらいの上演。あまり人気ある演目ではないということかな。上方歌舞伎を見慣れていないせいか、鴈治郎の和事味とか、「ぴんとこな」の役柄というのは、実にピンと来ないね(笑)

傾城役の七之助、米吉は綺麗だが、芝翫演じる幸才典蔵は、どうも人物につかみどころが無く、鴈治郎と一緒にバタバタやるのだが、あまり印象に残らない。話の内容は、実際の所、何が面白いのかあんまり分からなかったな。

最後は舞踊「秋の色種(あきのいろくさ)」

名曲すぎて振りがつけ辛いといわれた長唄が原曲。舞台は美しい秋の情景。梅枝と児太郎が、まず二人で琴を弾く。玉三郎に厳しく鍛えて貰って、いつかは阿古屋を伝授して貰えたらよいね。この演目も大向う無し。静かでよろしい(笑)

そして玉三郎が若手女形2名を両脇に従えて踊る。玉三郎は若手を従えて踊るのが好きだなあ。勿論、若手にもよい勉強になるだろう。中心で踊る玉三郎は、たおやかにそして優美に美しく舞うのだった。舞が終わった後の花道の引っ込みも印象的。

打出しの後、地下鉄の駅に向かうと、雲間に美しい月。

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