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97年から書き続けたweb日記を、このたびブログに移行。
「名画の言い分」
「しみづ」でお会いしたAさんからお土産に頂いた本、「名画の言い分」(木村泰司/集英社)読了。「数百年の時を超えて、今、解き明かされる「秘められたメッセージ」」と副題が。

西洋美術史家である著者が、古代ギリシャから印象派までの西洋美術史を、「西洋美術は『感性で見る』ものではなく、『知識を持って読み解く』べきものだ」という観点から通覧するという興味深い試み。しかし、決して堅苦しい本ではない。多くの口絵写真が掲載され、読みやすい平易な語り口で、西洋美術鑑賞の楽しさを語る面白い読み物に仕上がっている。

近代以前の西洋美術には、宗教・歴史・政治などのフレームワークの上に構築された当時の世界観が投影されている。そして、それらの芸術は、そこに投影された背景に関する「教養」がなければ理解できないのだという著者の主張は、「ルーブルよりオルセーが好きだとフランスの知識人に言ったら笑われる」などの辛辣な指摘に端的に現れている。

「感性だけでは語りえぬことがある」というのは、ブログ全盛、何に関する素人批評も自由に発信可能な今の時代では、(自戒もこめて)耳の痛い指摘ではあるのだが、解説を読んでゆくなら、誰しも納得するだろう。

もちろん、その美術品が作られた当時、ヨーロッパのごく普通の大衆に、その美術品を理解する「教養」などなかった。しかし、芸術のパトロンとなった、王族、貴族、教会、富裕層には、当然ながらそのような素養があり、注文を受けた芸術家達は、当時の「普遍的な美」という約束事の中で、依頼者を満足させるための「シンボル」や時には「メッセージ」を絵画や彫刻に描きこんでいるのだ。

もっとも、著者は、全ての人にそのような専門的知識を要求している訳ではない。誰もが西洋美術史家になる必要などサラサラないのだから。しかし、美術を巡る「教養」について、主要なエッセンスを把握するだけでも、鑑賞の大きな助けになり、我々が西洋美術を見る目を豊かにしてくれるというのがこの本の主張。

本書では、古代ギリシャ・ローマ文化、キリスト教の拡大、ルネッサンス、宗教改革などの世界史的背景を、ベーシックな基礎知識として時代順に押さえながら、

・男性美を希求したギリシャ文明
・ローマ文化とキリスト教文化の融合
・ヨーロッパ土俗信仰と密着したマリア信仰
・ネーデルランド宗教画のシンボリズム
・美術上の表現に見る「天使とキューピッドの違い」
・美のスーパースター・ニコラ・プーサンとフランス芸術アカデミーが規定した「古典的美」
・グランド・ツアーの流行と風景画の隆盛

などなど、実に興味深いトピックを順次解説してゆく体裁になっており、口絵と見合わせながら読み進んでゆくと実に面白い。

巻頭の口絵に掲載された美術品は、やはりヨーロッパの美術館にあるものが多い。アメリカの美術館にも大富豪が買い漁った名品は数多くあるのだが、例えばルーブル美術館に所蔵された歴史画・宗教画の、目が眩むような絢爛たる展示には、背後に存在する歴史の圧倒的な厚みの違いが現れている。

ルーブルも、一度だけ訪問したことがあるが、あまり時間が取れなかった。もっと残念なのは、フィレンツェのウフィツィ美術館。97年の9月、目の前までは行ったのだが、入場を待つあまりの長蛇の列に諦めたのだった。今にしてみれば実に愚かだったなあ。こちらもいつか再訪できればよいのだが。
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