97年から書き続けたweb日記を、このたびブログに移行。
『「係長」山口瞳の処世術』
最近、個人的に山口瞳回顧ブームである。「「係長」山口瞳の処世術」を読了。

著者は、サントリー宣伝部で山口瞳が係長を務めていた頃に入社した元部下。この本は、当時の山口瞳を扱った評伝あるいは一種のエッセイ。前著『「洋酒天国」』とその時代」は、第24回織田作之助賞を受賞したそうだが、読む順番が前後してしまった。

仕事の場で本人とつきあった者でなければ分からないエピソードと共に、山口瞳本人の素顔が描かれ、なかなか興味深い。もっともその中には、なるほどと得心のゆくものと、そんなものなのかねえ、と不思議に思うような側面と両方あり。

そしてなんとも面白いのは、サラリーマンとしての山口瞳の仕事ぶりの背景に映りこんでいる当時の世相や時代背景。むやみに活気があって、酒も大いに飲み、仕事もガンガンやるサラリーマン生活。もちろん、サントリーという会社の体質もあるのだろうが、多少の無茶や、無謀なチャレンジも許された仕事ぶりには、経済全体のパイが拡大を続け、誰もがよりよい未来を信じた、経済成長期の日本の世相が、明らかに反映されているのだ。

それは、「植木等伝~わかっちゃいるけど、やめられない!」でも描かれていた、バブルではなく、本当に経済が成長していた時代。映画でいえば、森繁の「社長シリーズ」なども同じ時代だろうか。経験してないだけに、なんだか当時のサラリーマン生活には憧れるなあ。

私自身が大学を出て就職したのは、とっくの昔に高度成長は終り、オイルショックを除けば、実質GNP成長率が戦後最低になった頃。その後しばらくして、だいぶ景気が上向いたと思ったら、こんどはガラガラとバブル崩壊。あれは成長ではなく、バブルの夢まぼろしでしたと、後になって言われてもなあ(笑)。そして日本全体は、完全に低成長時代に。

まあ、当時のような高度成長は、社会も経済も成熟し、長期的な凋落傾向にある日本社会には、二度と再びは巡ってこないだろう。アメリカにもおそらくそんな機会は無いのでは。そうだなあ、やはりインドか中国、ブラジルにでも生まれ変わらなければ。

なかなか興味深い本であったが、若干気になったのは、この著者の山口瞳を描く視点に、どうも温かみが欠けているのではという点。この人は、実はあんまり山口瞳が好きではなかったのかとも思ってしまう。

もっとも、考えてみれば、著者が社会人としてサントリーに入社した時、すでに山口瞳は係長。年の差も12歳あり、腹を割った友人関係ではなく、上司と部下の関係。おまけに著者は、もう今年で71歳。この年になって、12歳上だった上司の思い出を書くというのも、なかなか難しい仕事には違いない。

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