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97年から書き続けたweb日記を、このたびブログに移行。
シリーズ完結 「怖い絵3」
中野京子の「怖い絵」シリーズは、これで完結だという。「怖い絵3」読了。

過去日記でも、前二作の感想を書いたが、やはり面白い。西洋美術には、いくらでも題材が転がっているだろうから、次々書き継ぐこともできたかもしれないが、3作目で完結というのも、なかなか程が良い。

ボッティチェリ「ヴィーナスの誕生」が描くのは、貝の舟から降りて、地上に一歩踏み出すと、地には花が満ち溢れ、濡れた肌からしたたりおちる雫が真珠になったという美神。しかし、ヴィーナスは、この世で最初の殺人、息子の父殺しから誕生したという。そんな、血塗られた神話についての知識を持ってこの絵をみれば、愛と死、喜びと苦悩、歓喜と絶望、すべてのアンビバレントな感情を内包したこの傑作が、また新たな印象で胸に迫ってくるかのよう。

レーピン「皇女ソフィア」は、権力の座を血みどろで争った、17世紀ロシアのロマノフ王家の女傑、ソフィアの凄まじい運命と意志の力が感じられる恐ろしい迫力の絵。やはり、ロシアの歴史画は、実に怖い。

美術館に行くと、中世の絵画で、貧乏な庶民が、飲んで歌って大騒ぎしている構図がよくある。いったい何のためにそんな絵を描いたのかいつも不思議に思っていた。しかし、ヨルダーンス「豆の王様」の解説を読んで、なるほど、そんな背景があったのかと納得。

貧乏な時代から、献身的に尽くしてくれた女を、あっけなく捨てた画家、エゴン・シーレ。絶望した女は、第一次世界大戦の従軍看護婦に志願し、そして戦場で死ぬ。しかし、死神は、画家本人をも見逃してはくれなかった。エゴン・シーレ「死と乙女」の背景に潜む、静かな死の予感。

レッド・グレイヴ「かわいそうな先生」には、ビクトリア朝の没落した元レディ、ガヴァネス達の歴史が投影されている。

絵画というのは、昔は、王侯貴族や金持ちしか所有し、楽しむことはできなかった。しかしそれは同時に、画家自身の人生や、生きた時代そのものを映し込む鏡。

我々は、世に美術が溢れかえる実に幸せな時代に生きている。そして、その時代にあって、汲めども尽きぬ、底知れぬ魅力を持つ絵画の世界へのガイドとして、実に秀逸なシリーズだった。

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