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97年から書き続けたweb日記を、このたびブログに移行。
「地球温暖化の予測は「正しい」か?~不確かな未来に科学が挑む」
「地球温暖化の予測は「正しい」か?~不確かな未来に科学が挑む」読了。読みやすく、かつ面白い。

地球温暖化については、なぜか温暖化研究の専門家ではない人によって書かれた本も多いのだが、この著者は、地球温暖化研究のコンピュータ・シミュレーションを専門としている研究者。

しかし、記述については、温暖化予測が正しいと声高に主張したり、温暖化懐疑論を批判するものではなく、抑制の聞いた公平な観点から、気象シミュレーションについて丹念に解説を行ってゆく。温暖化予測の近年の主役となったのが、コンピュータを利用した「気候モデル」によるシミュレーションだが、このモデルがどのように作られているか、信頼性や計算の限界、不確実性等についても、分かりやすく解説してある。解説の中でいわゆる温暖化懐疑論者の主張に触れる部分もあるが、最近の研究では否定的な結果が出ている点などについても、抑えた筆致で淡々と記述してあり、読みやすい。

この「気候モデル」には、地球各地の気温や気圧などのデータは入れていない。地球の大きさ、回転、重力、太陽からのエネルギーの量、陸と海の分布、地形、植物分布、大気の成分などの物理的与件だけを入れてやれば、あとは物理の方程式を繰り返し解いてゆくだけで、熱帯は暑く、両極は寒くなり、地球の気候が再現されるのだという解説には、最初はちょっとビックリ。まあ、考えてみれば実際の地球も、単に物理の法則に基づいて現在の状態になってるのであるから、当たり前といえば当たり前か。

しかし、気候には、方程式にできない複雑な事象やミクロの現象がマクロに与える影響などが存在する。これを「パラメタ化」という手続きで補正していることや、完成当時世界最速であったスパコン「地球シミュレータ」でも、長期予測には計算能力が足りず、荒いグリッドでしか計算できないことなど、気候シミュレーションに関する興味深い知見にあふれた本。

著者の現時点での結論は、「(地球温暖化は)前提が正しければ,不確かさの幅の中に現実が入るだろうという意味において『正しい』」というもの。控えめながらも、精度が上がってきた研究を背景にした静かな自信のようなものが感じられる。

地球温暖化について、巷には水掛け論的なやりとりがあふれているが、感情的な温暖化論にも、同じく感情的な温暖化懐疑論にもくみしない、冷静なる解説として、今後の地球温暖化論を読む時の基準線ともなりうる貴重な本だという印象。

この著者は、「地球温暖化懐疑論へのコメント」の共著者としても名前を連ねているが、こちらのコメントのほうは、いわゆる「温暖化懐疑論」についてかなり歯に絹を着せぬ批判をして論破しており、これまた面白い。この「コメント」で槍玉に挙げられた一人は、webで調べると名誉毀損の訴訟を提起しているのだが、科学的な再反論というよりも感情的な部分が目につくような。ここ何年かで、「地球温暖化懐疑論」は分が悪くなっているように思われる。

もっとも、地球温暖化が真実で、それが人間活動の影響であっても、そこは議論の単なる出発点。地球温暖化が人間社会や環境に与える影響、温暖化を止める対策が社会的に本当に可能か、そしてその対策に要するコストは引き合うのかどうか。検討すべきことは山ほどあり、そのためには気候学を遠く離れて、政治や経済、文化や生きる哲学の問題にまで踏み込まなくてはならない。我々が何をなすべきかの決定は、やはり容易ではないように思われるのだが。

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