97年から書き続けたweb日記を、このたびブログに移行。
「シン・ゴジラ」を観た
「シン・ゴジラ」を観た。



冒頭のタイトルもなんだか昔懐かしい東宝怪獣映画風味。ゴジラの咆哮や背景に流れるテーマ曲が旧作オリジナルなのが、やはりハリウッド物と違う本場日本発。総監督庵野秀明については「ヱヴァンゲリヲン」も観たことがなく作風の知識無し。「風立ちぬ」でとんでもない棒読みの声優をやらかしたのは記憶にある(笑)

怪獣映画は最初に船の沈没など謎の事件が起こるのがお約束だが、本作も冒頭は同じ。しかし映画はその後、首相官邸内部の危機管理にまつわる政治家と高級官僚の駆け引きが緊迫した、一種政治ドラマの如き様相を呈して行く。総理を中心とした、政治家の思惑と透けて見える権力争い、各省庁の縄張り争いや杓子定規の対応は、実にリアル。政治家たちの人物造形もなかなか細かい。モデルになった政治家が伺えるようなキャスティングもw

昭和の怪獣映画では、ゴジラが現れると逃げ惑う群衆の中で、何故か怪獣の名前を知っている男が指さして「ゴジラだ~!」と叫び、すぐに自衛隊のF104が飛来して雨あられとミサイルを発射し、海岸や川岸には戦車がズラリと並んでガンガン大砲を発射する。しかし、実際の世界に本当に異形の怪物が登場したら、そんなすぐに対応できるはずがない。

映画中で政治家と官僚が、自衛隊の出動を何の法規に依るか、安保による米軍の援助の可能性など、真剣にもめる様子も実に興味深い。日本に上陸した禍々しい破壊神ゴジラは、日本を存亡の淵に追いやる全ての危機のシンボリックな表現でもある。

冒頭、ゴジラが鶴見辺りに上陸して川を遡上するシーンには、東日本大震災津波被害の映像が投影されている。現実の映像は時として映画のイマジネーションを超える。スペースシャトル打ち上げが失敗して、青空に流れ星となって散って行く映像は、その後の映画のCGにも影響を与えたし、911のワールドトレードセンター倒壊とその爆風が道路に広がってゆく映像が「クローバーフィールド」に投影されていたように。

ゴジラの進路でモニタリング・ポストの放射線量が上がったり、高圧コンクリート注入車の使用など、福島原発事故もデジャブとして映画の背景に映り込んでいる。

ゴジラ対策に奮闘する官邸の外にデモの映像が映り、ドンガドンガの太鼓とシュプレヒコールが聞こえてくる部分も印象的。「ゴジラを倒せ」という声も一瞬聞こえる気がするが「ゴジラを守れ!」という声も聞こえる。内閣は既に超法規的措置でゴジラ撃退のための自衛隊の防衛出動を決定している。この時点で「ゴジラを倒せ」などとデモするはずがない。自衛隊の武力使用を認めたくない共産党やシールズが、「戦争反対、ゴジラを守れ」とデモをやっているのではと思える皮肉な演出。本当に日本に軍事的な危機的事態が到来しても、「武力行使反対!」、「自衛隊帰れ」とデモする層がきっと出てくるだろうと思えるのもまた現代の日本。

ハリウッド映画ならお約束の突出したヒーローは出てこない。個々の人間ドラマは描かれず、むしろ群集劇として映画は進行する。主役は敢えて言うなら内閣官房副長官の矢口だが、危機一髪で修羅場を走り回るアクションも無いし、感情丸出しにして怒鳴ると、「まず君が落ち着け」と制され、最初は対立するヒロインと心が通じ合ってキスする場面(笑)なんかも皆無。ハリウッドが大好きな場面はまったく無いというのも珍しいが、それでもゴジラ造形のすさまじい迫力もあり、実に手に汗握る映画として印象的に成立している。

災害に慣れた日本人は、とてつもない危機に際し、たとえ突出したリーダーがいなくとも、真面目に粘り強く英知を集めて対応して行くのだというのは、小松左京が「日本沈没」、「復活の日」、「物体O」などで繰り返し描いたテーマだが、この映画の基調低音にも、「日本は何があっても復活する」という明るい意志が流れている。この辺りはゴリゴリの左翼の人が観ると腹が立つところだろう。彼らにとっては今の日本が最低で、自分たちが愚かな人民を領導する未来こそが理想なのだから。

多国籍軍による熱核攻撃を受ける寸前の東京。派閥の年功序列で農林水産大臣になった小物大臣の平泉成が、火中の内閣を押し付けられたボンクラに見えて、最後に開き直り、意外に頑張る演出もなかなか泣かせる。

石原さとみは頑張っているのだろうが、アメリカ人という現実感無くちょっと浮いているか。この役は日本人の誰がやってもおいしい目にはあえず難しい。昭和の怪獣映画にはよく外国人が出てきて、英語のセリフがあるのもお約束であったから、オマージュとしてアメリカ人の女優連れてくればよかったのに。まあ、しかしやたら男ばかりが出てくる映画であるからして、やはり華のある女優が必要なのかね。

さて、ゴジラであるが、ビックリするくらい形態を変えて行くという設定もなかなか興味深い。第二形態は最初に見て、あまりの異様さに、「一体これ何じゃ」と驚愕する(笑) 最終形態になっても、眼が哺乳類とは全く違うウツボの眼で、歴代ゴジラの中でもなかなか怖い。

武蔵小杉から丸子橋を渡る多摩川での自衛隊とゴジラの決戦は、昔のゴジラ対自衛隊を踏襲しながら、CGによって何倍もパワーアップしており圧巻の見所。空中からの引きの鳥瞰画像が多用されるのだが、これも実に禍々しくも不気味。都心に来てからのゴジラは、赤坂、霞が関、新橋、銀座四丁目、東京駅と、狭い範囲でやたら暴れるので東京都心は滅茶苦茶である(笑)

ゴジラの背中から口から尻尾から、禍々しい熱線が空を縦横に駆け巡り、ドローンを落とし、都市を破壊してゆくシーンは、圧巻にして幻想的な美しさをさえ感じさせる実に印象的なシーン。生物というよりも巨大終末兵器。口から火を出すのはゴジラ物のお約束だが今回の熱線が一番破壊的で凄まじい。新幹線や在来線の扱いも、東京駅ならではで盛り上がるところ。

全編を通じて疾走感がありながら、実に重厚な政治ドラマであり、恐ろしい終末モンスター物でもある。大成功作だ。日本発のゴジラだけではなくハリウッド発も含めた全てのゴジラ物の中でも、いや日本のSF映画の歴史上でも、おそらく長く語り継がれる金字塔になるだろう。


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