97年から書き続けたweb日記を、このたびブログに移行。
歌舞伎座三月大歌舞伎、夜の部
土曜日の夜は、歌舞伎座三月大歌舞伎夜の部に。

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昼の部の終了が遅いこともあるが、夜の部はほぼ満席で、入口はごった返している。

最初の演目は、「双蝶々曲輪日記 引窓(ひきまど)」。人形浄瑠璃から歌舞伎化された狂言だが、その八段目。二段目「角力場」は前にも歌舞伎座で観た。

相撲取りの濡髪長五郎は「角力場」にも登場していたが、今回は彌十郎が演じる。役者が大柄であるから、相撲取り姿がよく似あう。義理立てから止むなく人を殺めてお尋ね者となり、今生の別れに昔、養子に行かされて別れた実の母親を訪ねてくる。そして、その母は再婚し、相手の先妻の子である南方十次兵衛(幸四郎)が村の役人に取り立てられ、濡髪長五郎を捜索しているという状況。

実の息子を逃がしたい、しかし昔の忠孝の常識では義理の息子こそ立てねばならない。板ばさみになった母親の葛藤。そして、義理の母親の苦しい心を察知して、濡髪を逃がしてやろうとする十次兵衛の思いやりが、引き窓を小道具に交錯する。派手な動きは無く、主役が引き立っているとは言い難いが、台詞劇としてなかなか印象的に成立している。十次兵衛の女房役魁春が、義理の母親を立てなければという心情に溢れる。

ここで15分の幕間を経て、「けいせい浜真砂(けいせいはまのまさご)」

石川五右衛門を主人公にした歌舞伎狂言も多いが、主人公を女に変えた女五右衛門物、長編の「けいせい浜真砂」から「南禅寺山門の場」だけを上演。

上演わずか10分。浅黄幕が切り落とされると豪華な山門。藤十郎は煌びやかな衣装が見所。あとは山門がせり上がり、仁左衛門が出て来て、それで幕となる。上演わずか10分。藤十郎はこの10分の為だけの歌舞伎座出演。贅沢なもんですな(笑) 仁左衛門は、昼の部が「義経千本桜」で終わった後、この10分の為にだけ、「どんつく」、昼と夜の入れ替え、「引窓」と、3時間以上も待っていることになるのだから、歌舞伎役者も大変だ。海老蔵は、夜の部「助六」出演のみで、夕方に歌舞伎座入る前までは子供と朝飯食べたり歯医者行ったりメンテに行ったり、ブログをせっせと更新する余裕すらあるみたいだけど。

ここで30分の幕間。三階花篭にて「さくら御膳」を。ホタルイカや飯蛸、桜餅など春の彩り。

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さて、最後の演目は、本日夜の部メイン、「河東節開曲三百年記念」と銘打った、「歌舞伎十八番の内 助六由縁江戸桜(すけろくゆかりのえどざくら)」

河東節は、成田屋が主演する「助六」の伴奏にしか使われない江戸発祥の三味線浄瑠璃。今では素人の旦那衆や奥方がやっており、助六が上映される時は、その時だけの「名取」となり、歌舞伎座の舞台でも交代で勤めるのだとか。確かに看板には当日の出演者が。「ぼたん」とあるのは海老蔵の妹。

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筋書きには当月の出演者一覧があり、大勢名前が挙がっているが、「ナイルさん」というのは、歌舞伎座向かいの「ナイル・レストラン」オーナーじゃないかな。

裃姿の右團次が口上を。この最初の口上も、成田屋が上演する助六にしかない伝統ある所縁の演出。

絢爛豪華な吉原を背景に、粋で洒脱で鉄火で女にモテモテ。江戸っ子の理想を体現したような花川戸助六が、「どうだ格好いいだろう」と大見得を切って舞台で活躍する。昔の江戸で人気であった曽我兄弟の設定も重ねて。

「出端(では)」と呼ばれる助六の登場は、幕が開いてから45分ほど経ってから。そして花道で延々と15分程、花川戸助六の男伊達と格好良さをたっぷりと舞台一面に振りまく。土曜は、西の桟敷と花道の間、いわゆる「ドブ」の4列目だったので、花道はもう手が届くほど。助六登場は実に迫力あり。ただ、意休さんやくわんぺらは遠かったが。

海老蔵にとっては何度も演じた助六。成田屋の御曹司に生まれなければ、若いうちから助六を主演することはまずなかろう。成田屋の成田屋による成田屋のための、当代の團十郎、あるいは海老蔵が劇の中心に屹立する煌びやかな一大プレゼンテーション。演者も多く、だからこそ、そんなに度々演じられる演目ではない。

海老蔵は、時として良い歌舞伎役者だとは思わない面もあるのだが、この花川戸助六に関しては、鼻筋がスッと通った見事な男伊達で台詞にもまったく上滑るような癖も無く、劇場全体を手の内に睥睨して、寸分の隙もなく煌めいている。成田屋の当代や御曹司が一番映えるように考えられた伝来の演目なのだから当然といえば当然か。

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江戸の昔、一日千両の金が動く場所というのは、歌舞伎と魚河岸、それに吉原くらいとイヤホンガイドで。お互いの世界は深い付き合いがあり、「助六」がかかる時は、今でも江戸紫の鉢巻を魚河岸の旦那衆から貰う仕来りに。さすがに最近は吉原も、江戸の昔ほどの一大遊興地ではなくなったから、こちらからは唐傘などは贈られないのだろう。もっとも浅草界隈の旦那衆とは、平成中村座や襲名のお練りなどもあり、今でも歌舞伎界とは結構付き合いがあるのだろうが。

江戸情緒に溢れた傾城達の揃い踏みが賑やか。華やかに次々登場。髭の意休は、元々ニンに合った左團次が手慣れた体で演じる。しかし、あれは床几に座ってずっと背を伸ばして役の大きさを見せねばならず、結構大変な役だ。

女形大役の三浦屋揚巻は雀右衛門が初役で。悪態の初音は、普段はおっとり上品な大夫でそんな事は決して言わないのだが、愛する間夫をけなされ、意を決して悪口をきくという風情が良い。ただ品格はあって立派に成立しているが、匂い立つような艶やかな色香には、ほんのちょっと欠けるか。まあこれは役者の個性というものかもしれないけれども。くわんぺら大王は達者な歌六。

福山かつぎの巳之助、国侍や奴、通人の股くぐりや楽屋落ちを散りばめたお笑い部分も、白酒売新兵衛を演じる御大菊五郎の和事風味もあって実に和やかに成立している。普通の狂言というよりも、一大祝祭としての成田屋宗家の「家の芸」。今度「助六」が歌舞伎座でかかるのは、海老蔵の團十郎襲名披露興行だろうか。 観れる内に観ておこうと、日曜の夜も「助六」だけ観に行ってしまった(笑)

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