97年から書き続けたweb日記を、このたびブログに移行。
福島原発事故に対するデマ臭い噂
ネットでは、「政府も東電も全ての真実を隠している」、「福島事故はチェルノブイリの規模を超えている」、「日本政府の放射線基準は、チェルノブイリの避難基準の4倍甘い」などなど、どうもデマ臭い噂がずいぶん流布されている。Twitterや2ちゃんねるは、容易にデマを広めるツールとしても有効に働くので、全てをうかつに信用して次々に拡散するのは危険だ。

だいたい秘密主義の共産主義帝国であった25年前の旧ソ連邦が、日本よりも情報を速やか一般に開示し、国民を大事に保護したかどうかは、一般常識を働かせればすぐに分かりそうなものだが。

ちょっとデータを調べてみた。

5月になってから発表された、文部科学省及び米国エネルギー省航空機による航空機モニタリングによる放射線積算マップ。(この資料の「別紙4」のセシウム137を参照)

そして、この発表を受けた朝日新聞の記事

朝日の記事には、チェルノブイリ事故の強制移住対象レベルの地域が、東京都の面積の4割だとか、琵琶湖より広くて800平方キロとか、怖がらせるような言葉も並んでいるのだが、注目すべきはこの部分。
(福島の)セシウム137の蓄積濃度が1平方メートルあたり60万ベクレル以上に汚染された地域は(中略)チェルノブイリ原発事故で強制移住の対象になった55.5万ベクレル以上の地域の、約10分の1にあたる

すなわち、原子力安全委員会が福島事故をレベル7に認定した時の、「大気中への放射性物質放出量は、チェルノブイリのおよそ1/10」という推定とちゃんと平仄が合っている。福島事故で汚染された範囲はチェルノブイリの1/10程度。チェルノブイリよりも規模が大きい事故なんてことはない。(もちろん、海やサイト内の汚染水をカウントすればもっと増えるかもしれないが、これは今回の陸地の汚染には関係ない)

「日本政府の20ミリシーベルトという基準がチェルノブイリの退避基準5ミリの4倍甘い」という話も、元はNY Timesの記事で、ずいぶんあちこちで拡散されているのだが、ネットで調べる限りでは、根拠となるシーベルトに換算されたチェルノブイリ退避基準を確認できなかった。

そのかわり見つけたのがコレ(かなり古いが昔の数字を見るには十分)。

キュリー/平方キロで書いてあるので、上記文科省の測定で使われているベクレル/㎡にするには換算が必要だが(1キュリーは 3.7 X 10の10乗ベクレル)、チェルノブイリ事故から3年後の1989年に、ベラルーシ政府が決めた退避基準が「15キュリー/平方キロ」。これは計算すると55.5万ベクレル/㎡であるから、上記の朝日の記事とピタリと一致する。おそらくキュリーで表示されたこれが、チェルノブイリの正しい退避基準ではないのか。

チェルノブイリでは、当初退避したのは30キロ圏内だけ。55.5万ベクレル/㎡という基準は、事故から3年も経ってからベラルーシ政府が決めたもの。ソ連邦の力が弱体化するまではそんなことは各共和国で決めることができなかった。

そして、もう一度放射線積算マップに戻り「ベラルーシ避難基準(55.5万ベクレル/㎡)」にほぼ等しい「60万キロベクレル/㎡超」の地域を見るならば、福島第一原発から北西に延びた範囲は、30キロ圏には留まらず、飯舘村をほとんど覆ってしまう。気の毒な話であるが、やはりこの村に残るべきではない。村は捨てざるを得ないだろう。

そしてこの記事によると、既に30キロ圏からはみ出た、この飯舘、川俣(山木屋地区)辺り、「60万ベクレル/㎡超」地区の避難計画は進行中で、「55.5万ベクレル/㎡」の旧チェルノブイリと実質的にほぼ同じ水準で、3年早く避難が完了することになる。

シーベルト換算がソ連の4倍甘いかどうかについては直接確認できなかったが、上記のごとく、ベクレル/㎡換算ではほぼ同じ数値のエリアを退避させることになっており、日本の避難基準が旧ソ連の4倍甘いなんてことはありえないだろう。

日本政府やお役所、あるいは東電が何か隠蔽しているという陰謀説を唱える人がいるが、日本の場合、ちょっとネットで探しただけで、メディアや各種官庁からの上記のようなデータがいくらでも手に入り、比較対照もできる。旧ソ連に比べれば比較にならない。東電からの原子炉状況についての報告でも、一歩進めば二歩後退といった、うんざりする暗い話も刻々と出ており、あれで何か隠蔽しようと企んでるのだったら、まさしくお笑いである。

もちろん日本政府や地方自治体の当初の対応は混乱しており、遅れ、全てがスムースに行われてないのは事実。飯舘村近隣も、もっと早くに避難させるべきだった。しかし、旧ソ連邦では、国家のあてがった住居に住んでいた何も知らされてない人民を、軍隊使って何の補償もなく追い立て移送するのは簡単なこと。現在の日本で、住民の権利を制限するような規制を迅速に行うのは実に困難を伴う。しかし総じて、安全を考慮しての避難は粛々と進みつつあるのではないか。

福島事故が深刻でないと主張している訳ではない。もちろん深刻だ。それでもなお、事故としての規模はチェルノブイリの1/10であり、チェルノブイリとほぼ同等の基準で、住民の退避も進みつつある。各機関からの各種観測データは公開されており誰でも自由にクロスチェックできる。国民には移動の自由があり、個人の判断での避難も可能。チェルノブイリでは行われなかった食品モニタリングによる残留放射能測定と流通規制も行われている。総合すると、日本国民が受ける放射線の全体的被害は、チェルノブイリ事故の1/10よりも更に小さくなってもおかしくはない。もちろん、福島原発の事態がこのまま収束すればの話だが。

ということで、長々と書いたが、個人的な考えをまとめるなら、最初に書いたようなネットに流れるデマ臭い噂は、その通り全部デマだと思う。

もちろん、信じるか信じないかは、あなた次第です。←これ言うととたんにウソ臭く聞こえるなあ(笑)


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コメント
この記事へのコメント
「嘘も百回言えば真実となる」
デマも百回読むと、もしかしたら・・・と思えてくるので怖いです。
これからはHoriucchiさんの解析を心の支えにして生きていきます(笑)。
デマ臭い噂は全部デマだ!
2011/05/12(木) 23:19:05 | URL | 夢吉 #-[ 編集]
何が本当で何が嘘なのかわからなくなってきてますねぇ。後出し情報で、「燃料棒は全露出してますが冷えてきて大丈夫です」とか聞かされても、あまり驚かなくなってる自分にちょっと驚いてみたり。

事故発生から各炉のパラメータ(圧力や温度、放射線量など)が公開(微妙な隠匿が最初みられたっぽいですが)されてますが、3号炉の温度がGWあたりからひたすら上昇続けてたりするんですよね・・でも驚かない自分に驚いt・・(笑)
2011/05/13(金) 09:36:06 | URL | taka #xJy3ruYo[ 編集]
>夢吉様

情報隠蔽説や、悲観的なデマを流してる人も、実に不安でしょうがないからそうしてるとは思うのですが。

確かに予断は許しませんが、今のところ陸地への影響は今後もそれほど脅威的ではないのではと思っています。

昨日報道された一号機メルトダウンにしても、東電は燃料棒損傷と称してましたが、4月頭くらいから推察されてましたからねえ。炉心の状態がわかっただけで、炉の温度には変わりなく、状況が悪化した訳でもないですから。

やはり、だんだん麻痺してきたかな(笑)
2011/05/13(金) 21:05:40 | URL | Y. Horiucci #-[ 編集]
>taka様

崩壊熱もだんだんと下がってきてるはずなので、もうこれ以上悪くならないだろうという印象もしてるのですが、果たしてどうなるか。

まあ、しかし、収束まではまだまだかかりそうですね。これ以上の大規模な大気への拡散は、まずないと思うし、そう願ってますが。
2011/05/13(金) 21:08:26 | URL | Y. Horiucci #-[ 編集]
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