97年から書き続けたweb日記を、このたびブログに移行。
やはりチェルノブイリ級ではない
放射性物質:77万テラベクレル…総放出量を上方修正

日本政府がIAEAに提出する報告書に記載される福島原発からの大気への放射性物質放出量が、4月12日の内閣府原子力安全委員会の推計63万テラベクレルに対し、77万テラベクレルと、更に上方修正されたとの記事。まあ、悪いニュースにはもう驚かないが、より正確な計算が出てきているのはよい事と言えるかもしれない。

原子力安全に関するIAEA閣僚会議に対する日本国政府の報告書は、事故の経緯や原因の分析など、図表も入った結構な大作で、今度時間がある時にでも読んでみるか。

ここには確かに「福島第一原子力発電所の原子炉からの総放出量はヨウ素131 について約1.6×10の17乗 Bq、セシウム137 について約1.5×10の16乗 Bq と推定した」とあり、セシウムのヨウ素換算係数が40であるから、計算すると上記記事のベクレルになる。63万テラベクレルと発表された時点でチェルノブイリのおよそ1割と報道されたが、若干増えた模様。

しかし、チェルノブイリで大気に放出された放射性物質の総量は正確にはいくらだろうか。調べても諸説あるのだが、例えば、国連のチェルノブイリ・フォーラムが作成した、Environmental Consequences of the Chernobyl Accident and Their Remediation:Twenty Years of Experienceの、EXECUTIVE SUMMARYの2ページ、「Radionuclide release and deposition」の項には、「放射性物質の大きな放出は10日続き、事故当日(4/26)換算で14エクサベクレル」とある。これは14x10の18乗で、1千4百万テラベクレル。50%が希ガスと注があり、上記福島同様にこれを除いて半分にすると、700万テラベクレル。福島の77万テラベクレルは、およそ11%に相当して、だいたい平仄が合う。大気中への放出に関して言うなら、やはりチェルノブイリの1割程度の事故というのが妥当な規模感なのでは。

福島原発の大気中への放射性物質放出がチェルノブイリよりも格段に少ないのは、上記数値データによらずとも、チェルノブイリの事故経緯を考えれば感覚的に頷けるもの。

チェルノブイリ事故は、反応度事故で、核燃料の核分裂反応が暴走し最高に達した時に、燃料棒破壊と内圧の上昇による圧力管破壊、水蒸気爆発と水素爆発が次々と重なりあって起こり大爆発に。炉の蓋がひっくり返って、炉心が完全に大気に露出して内部の物質が蒸気と共に大量に高空まで吹き上がった。地獄の釜の蓋があいたような大変な事である。その後、減速材である黒鉛に火が着いて、巨大な練炭コンロのように炉心が数日間燃え盛り、更に放射性物質を遥か上空へと運ぶ。そして、この火が消えた後、また燃料溶融が起こり、溶解熱により更に沸点が高い放射性物質が気化して大気に。高温と化した核燃料は、ズブズブと建屋の底のコンクリートを溶かして沈み込んでいったのだ。ヘリによるセメント投下等の消火活動は、後の調査により何の効果もなかったとされており、石棺が完成して、原子炉を一応覆ったのは事故から半年以上経った後。

チェルノブイリは、原子炉事故としては悪いことがほぼ全て起こったフルコース。福島事故の場合は、冷却水喪失事故であり、いったん止まった原子炉が崩壊熱で炉心溶融。一部壊れているとはいえ、格納容器は、まだ曲がりなりにもある程度遮蔽の用を足しており、水蒸気爆発も起こしていない。炉の蓋がパカっと開き、燃え上がる炉心から放射性物質が何の遮蔽物も無しに、上空に直接立ち上っていったチェルノとはやはり桁が違って当然だ。(事故の経緯は、原子炉の暴走―臨界事故で何が起きたかを参考とした。)

もちろん福島事故が大したことがないと言っているのではない。福島事故は、チェルノブイリに次ぐ、人類史上2番目にひどい歴史的原子炉事故。だが、チェルノブイリとの距離はかなり空いている。大気中への放射性物質の放出もまだ続いてはいるが、炉はある程度冷えつつあり、各地の環境放射能測定を見ても、原子炉から空気中に放出される放射性物質のレベルは3月のスパイクと比べれば比較にならないほど下がっている。

ただ、大問題は、過去日記にも書いたが、炉心を冷却するために注水した水が、格納容器外にダダ漏れになっていること。これがまったく止まっていない。4700テラベクレルは海に漏れたが、それ以外は、原発建屋や敷地内に高濃度汚染水として滞留している。これは上記の放出量計算にはそもそも入っていない。

域内の汚染水は、過去日記で試算した時は6万トンだったが、現在ではこれが10万トンを超えていると報道されている。これがもし、海に漏れた高濃度汚染水と同じ放射性物質濃度なら、ざっと計算して90万テラベクレルということになり、既に空気中に放出されたものより、こちらのほうがずっと多いという計算になる。まあ原子炉の炉心を水でジャブジャブ洗ってるようなものだから、深刻なのは当たり前だが。

もう大規模な爆発的事象は起こらない公算が強いから、結局のところ、この福島原発事故のトータルの規模を決定するカギは、この原発建屋や敷地内の高濃度汚染水ということになる。

覆水は盆に返らないが、この高濃度汚染水は、まだ環境には放出されていないので、対策のしようはあるだろう。この増加を止め、環境に流出しないよう安全に保管すれば、当面の環境への影響を大きく減らすことができる。高濃度汚染水の除染については、まあおいおい考えるより他はないのだが。

しかし、これが海に漏れだしたら最悪だ。事故対応で、後手後手に回った東電のお粗末な報告は、今まで何度も聞いて脱力したが、「満杯になったので、結局、海に漏れてしまいました」という報告だけは聞かずに済むよう、衆智を集め、前倒しで対策を頑張ってもらいたいがなあ。
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コメント
この記事へのコメント
夕方の4チャンのニュースでは,もう汚染水が溢れそう,海まで20センチのところまで染み出してきているとか。
おまけに汚染水の発生を減らすために,注水を制限している。で,圧力容器内部の温度が再び上昇,180度ぐらいまで(水の沸点を超えてるがな)に達しているとか。
まだまだ安心できる状況ではないようです。
2011/06/08(水) 22:01:36 | URL | Jack #3v1sqfKU[ 編集]
まあ、困ったもんですなあ。

ちょっと前に1万トンの水を入れられるメガフロートが福島に曳航されてるとニュースでやってましたが、あれは実際に使ってるんでしょうか。

どうせなら、最初から何十万トンか入る巨大タンカーに汚染水貯めて、とりあえずしのぐくらいの方策考えてほしいですが。

圧力容器温度180度というのは、まだ気密性がある程度保たれてて、中が大気圧よりも上という理解をすると、大穴は開いてないという、ある意味よいニュースでは。

まあ、計器が間違ってましたという脱力の結論もありえますが。放射線の恐怖と戦いながらの原発現場は大混乱で大変だとは思いますが、頑張ってもらいたいものです。

2011/06/08(水) 23:30:18 | URL | Y. Horiucci #-[ 編集]
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