97年から書き続けたweb日記を、このたびブログに移行。
策謀家チェイニー 副大統領が創った「ブッシュのアメリカ」
ホノルルからの帰路に、「策謀家チェイニー 副大統領が創った「ブッシュのアメリカ」 (朝日選書)」読了。

ブッシュ政権の副大統領を務めたディック・チェイニーが、いかにして副大統領の権限を拡大し、政権の実権を握り、政策決定に深く関与していたのかを、丹念な取材により明らかにするノンフィクション。アメリカ政界の裏面を抉るドキュメンタリーとしても実に面白い。

卓越した知性を持ち、冷徹な判断力と実行力があり、ワシントンの政界で長年生き残り豊富な人脈を築き、法律や官僚組織について熟知している。しかしもう、若くはなく、健康には不安を抱え、大衆人気はない。そんな人物が、国を民主党から取り返し、自分の信念通りに作り変えるため、自分には勝ち目のない大統領選に立候補する必要があるだろうか。いや、必ずしもない。

大統領選はアメリカ国民挙げての人気投票であり、政治家としての実力・力量を問う試験ではない。就任すれば一挙手一投足が衆人環視の元に置かれ、好き放題にメディアの批判を受けるサンドバッグになるだけ。

それであれば、担ぎやすい神輿を担ぎ、その影で自分の政策をやりたいようにやればよいのではないか。ブッシュ政権内では、「マネジメント」と影で呼ばれ、大衆からは「ダースベイダー」と呼ばれたディック・チェイニーが本当にそう考えたかどうかは、本人の言明がない以上明らかではないが、この本を読むと、やはり真相はそうだったのではないかと思えてくる。

ブッシュから副大統領候補選考責任者に指名されたチェイニーは、何名かの候補者に対して何百にも及ぶプライベートな「身体検査」質問を送りつけ回答させるが、結局、自分自身には自分の決めた「身体検査」を行わないまま、いつの間にか自分が副大統領候補者として収まってしまう。このチェイニーのタヌキぶりは、本書の冒頭を飾る実に印象深いエピソード。

そしてブッシュ大統領がフロリダ・リカウントを制して政権の座につくと、アメリカ政治の中枢を熟知していたチェイニーは、ホワイトハウスや官僚の人事、大統領令を思うがままに活用しながら、副大統領職の権限を誰の目にも触れず次々に拡大して、政権の実質を手中にしてゆく。もちろん、表立った舞台で大統領に反対したことは一度もない。調整は全て事前の大統領との直接会話で済まされており、ブッシュ大統領もまたチェイニーを頼りきっていたのだ。

911への対応、その後のテロとの戦争開戦、国内盗聴やテロリストへの拷問の許可、環境問題よりも経済と共和党支持層の重視など、チェイニーがブッシュ政権の直面した課題の多くに直接深く関与して、いかに自らの思い通りにアメリカの進路を決めていったかが語られるその後の章も圧巻。

従来の副大統領は、「大統領選の集票補完役」、「大統領に万一があった時だけ必要なスペア」として「葬式に顔出すのが仕事」とも揶揄されたが、ブッシュ政権では、チェイニー副大統領が実質的にほとんど大統領と同じ情報に接し、判断の場に必ず同席して、自らの影響力を行使していたことが分かる逸話が満載。彼はまさしく影の大統領と呼ぶべき存在であった。

日本でこんな政治家がいるかと考えると、真っ先に浮かぶのは小沢一郎だが、「小沢一郎は背広を着たゴロツキである」「悪党―小沢一郎に仕えて」を読むなら、チェイニーには明らかにあって小沢に無いものがある。それは知性と理念だ。残念ながら、小沢は選挙や権力闘争にしか、そもそも興味が無い。

本書の表紙写真がまた秀逸。茫洋とした表情でスピーチするブッシュ大統領を横から見つめる、沈着冷静で、何ひとつ見逃さない、冷酷で全てを見通す恐ろしい目。写真は、時として何十頁の文章よりも端的に真実を語ることがある。

原題の「Angler」とは、「釣り師」から転じて、「策を用いてうまく欲しいものを手に入れる人」の意。

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