97年から書き続けたweb日記を、このたびブログに移行。
「父・金正日と私 金正男独占告白」
先週末に出た銀座、教文館の平積みで、「父・金正日と私 金正男独占告白」発見。さっそくその夜に読了。

東京新聞記者である著者は、まったくの偶然から、北京空港で金正日(キム・ジョンイル)の長男、金正男(キム・ジョンナム)と出会う。そして渡した名刺のメールアドレスに送られてきた金正男からのメールから、著者と金正男との奇妙な交流が始まってゆく。

初期のメールでのやりとり部分は以前文藝春秋に掲載されており読んだことがある。その後、金正男からのメールは一度途絶したものの再び復活。最終的には著者は中国で金正男本人と会い、インタビューにも成功しており、その内容が追加されているのだが、これが実に興味深い。

北京とマカオに家があり、お金に困ってる風もない、いわゆる気のいい金持ちのボンボン風の金正男は、著者の質問に対して、可能な限り真面目に回答しようとしている。

指導者としての金正日の実像や北朝鮮の政治については注意深く言及を避けているのだが、そもそも外国暮らしが長く、北朝鮮本国で権力中枢を占める基盤はもとよりない。本当に北朝鮮権力内部には詳しくない可能性もある。後継者となった異母弟、金正恩(キム・ジョンウン)とは会ったことがないというのも驚き。

9年近くスイスに留学し、自由主義社会の中で「完全な資本主義青年」として育った正男は、帰国後、父親である金正日に、解放政策こそが体制を維持して人民を幸福にする道だと説いたそうだが、父親はこの資本主義にかぶれた息子を敬遠し、やがて警戒するようになった。父親は「三代の世襲はしない」と言っていたと正男は述べるが、おそらく金正日はその後自らの判断を金正男がいないところで変えたのだろう。

崩壊した経済下、貧困にあえぐ北朝鮮人民への同情を示し、解放政策による経済立て直しが必須であると語る部分など、金正男の価値観は、基本的に極めて穏当で常識的なもの。父親への情愛は感じるが、北朝鮮の報道に見られるような個人崇拝のプロパガンダ臭はまったくない。

一度偽造パスポート問題で日本入国時に身柄拘束されたことは記憶に新しいが、それ以前にも東京には何度も滞在しており、新橋第一ホテル(現在の第一ホテル東京)に宿泊して新橋のおでん屋に行ったことやら、赤坂の韓国クラブで飲んだ話など、実に興味深いエピソードも明かされている。確かに新橋あたりをウロウロしてても違和感無いよなあ(笑)

メールの公開については著者は金正男に何度も確認しており、正男は過去には鷹揚に何でも記事に使ってよいと答えているのだが、最近、北朝鮮側から何らかの圧力がかかったのは確かで、金正日死去直後の本書の出版については、「時期がまずい」と反対していたのだという。結局、著者は出版に踏み切り、金正男からのメールは途絶えた。

すでに北朝鮮権力中央から排除されたとはいえ、現在は中国の庇護下にあり、中国としてもまだ万一の際に活用できるカードとしての価値があると考えているからこそ、自国での滞在を認めているのだろう。すぐに身の危険が迫るとは思えないし、ひょっとして、将来の北朝鮮情勢が混乱した時など、彼が再び表舞台に出てくる機会があるのではないだろうか。そもそも祖父の金日成も元々はソ連が連れて来た傀儡政権だったのだし。

北朝鮮のベールの向こうから、数奇な運命によってひょろりと外の世界に出て来た独裁者の息子が語る北朝鮮。興味深い本だった。


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