97年から書き続けたweb日記を、このたびブログに移行。
「毒婦 木嶋佳苗100日裁判傍聴記」
「毒婦 木嶋佳苗100日裁判傍聴記」はホノルル滞在中に読了。

死刑判決が出た婚活連続殺人事件の裁判を傍聴した著者が、犯人木嶋佳苗の実像と事件の真実に迫ろうというノンフィクション。

作者が女性だけあって、公判の過程で丹念に観察した木嶋像や、犯罪における男女の性の非対称性の考察などは興味深いもの。また、木嶋は、安易に性を金に替えることが可能になった、いわゆる「援交・ブルセラ」世代に属しており、これと事件との関連に言及している点も印象に残る。木嶋の回りには高校生の頃から、売春、援交の噂がまとわりついており、高校3年時には、知人宅から預金通帳と印鑑を盗み出して700万円余を詐取する事件を起こすなど、未成年の頃から既にモラルと金銭感覚に大きな欠落があったのだ。

本書には、新聞等の断片的な報道ではあまり分からなかった裁判での証言や提示された証拠などの興味深いエピソードが数々記録されており、これを読むと木嶋の犯罪事実は明らかだと思えるもの。

木嶋佳苗は、「性」をテコに使って男性から金を絞り取るのが得意。婚活サイトで知り合った男性達にメールを送る時でも、常に初回から自分が男女の関係に積極的であることを匂わせている。もっともその武器が誰にでも有効ではないことも知っていただろう。不謹慎かもしれないが、木嶋は、どんな男性になら自分の武器が通用し、どうしたら金を払うかと考え、きちんとマーケティングして男性を選んでいたように思えるのだ。

殺害された3名以外にも、木嶋に「学費の支援」と称して大金を要求されたり払ったりした男性数名が裁判でも証人として証言しているのだが、彼らの証言や行動をみると、なんだか共通する特徴がある。

消極的で小心者。奥手だったりマザコンだったり、あるいはオタクだったり偏屈だったりで世間が狭く、女性との交際経験が乏しい。しかし真面目で小金を貯めており、婚活サイトで熱心に自分より若い女性を探している。求めるのは、介護してくれ、料理を作ってくれ、尽くしてくれるような家庭的女性。だいたいほとんどそんな男性像のような。

裁判で明らかになったメールのやり取りで驚くのは、木嶋が、お願いするのではなくむしろ命令するが如く金銭を要求していること。学費援助として要望した金額に振り込みが足りないと、「生活費では無いので節約できるものではない。私が働かなければいけなくなって、あなたと会える時間が無くなるんですが、それでいいのですか」と相手を責め、警戒してなかなか金を払わない男性には「弟や妹にも、この人は貧乏なの? 愛情はないの?と責められています」などと「上から」メールを送っているのにはビックリ。

もっとも執拗に振り込みを要求された男性達にも、会社の上司や親に相談して、「それは詐欺だから止めておけ」とか「お前は何考えているんだ」と諭されている者がいる。そんな事くらい自分で判断できないのかと思うのだが、結局のところ、木嶋が最初から、優柔不断でカモにしやすい人間を執拗に狙っていたということなのだろう。とある男性への追い込みは逮捕直前まで続いていた。

この本を読んでいて一番気の毒に思ったのは、自動車内で練炭焚いて一酸化炭素中毒で殺された男性。40代で女性との交際経験はほとんどない。プラモデル造りが唯一の趣味。吝嗇でほとんどお金を使わない。木嶋と初デートの時は母親が服を買ってやり、結局殺害されてしまった木嶋との初旅行前には、旅行支度も全部母親がしてやったという。木嶋と結婚の約束をして470万円を木嶋に渡し、「もうこれからは自分だけの身ではない」と嬉々として新居も探していた。ブログに「婚前旅行に行きます」とアップした後、レンタカー内で死体に。

木嶋は、「自分が別れを告げたから絶望して自殺したのでは」と証言しているのだが、別れを告げられる前に、自殺用の練炭持って出発する者などいるはずがない。睡眠薬で眠らされ、木嶋が持ち込んだ練炭で殺されたとしか思えない。裁判の過程では(幸いにも殺されてないが)木嶋と付き合っている間に飲み物を勧められ、不可解な意識不明に陥った者が何名もいることが明らかに。木嶋には交際相手に対して睡眠薬を盛ることも日常茶飯事だったのだ。

ただ、事実が検察側の立証通りなら、この殺害の唯一の救いは、被害者が、木嶋に愛されていると信じ込んで(実は騙されていたのだが)睡眠薬で眠らされ、練炭による一酸化炭素中毒で苦しまずに死んだということかもしれない。モラル無き「毒婦」に手玉に取られ、自分は大金を騙しとられたのだと絶望して自殺したとしたら、それはそれであまりにも救いが無くみじめではないか。

それにしても、裁判の過程で明らかになった木嶋佳苗を巡る様々な事件の内容は、立件されなかったものを含めて、実に異様で奇怪極りないもの。犯罪事実は明らかであり死刑判決は妥当だと思うが、いったいなぜこんなモンスターが生まれたのだろうか。動機について解明できるとは思えないのだが、現代社会のどんな歪みが彼女をこうさせたのかについては考察する価値があり、同様の犯罪を防止するためにも社会として更なる検証が必要だと思うのだが。

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