97年から書き続けたweb日記を、このたびブログに移行。
「新橋鶴八30周年の夜」
3日土曜日は、「新橋鶴八30周年」記念パーティーに出席。よく訪問する寿司屋のひとつだが、石丸親方が32歳で神保町の名店「鶴八」から独立し、ニュー新橋ビル2階に店を出して30年なのだ。

この店には年季の入った太い常連が多い。作家やら企業の偉い人もゴロゴロ。接待よりも個人で来て静かに寿司を楽しむ客多し。寿司一筋に修行して、一時の利をむさぼらず、仕事した種でこつこつとお客さんから利益を頂戴する。そんな神田「鶴八」譲りの真面目な仕事を愚直に続けてきた、石丸親方の心意気に感動し集まったお客さんの積み上げた歴史が反映しているのだ。

まあ本来なら、若輩の私なんぞが顔出すのは恐れ多い話なのだが、出席を決めたのは石丸親方の師匠である神保町「鶴八」の師岡親方も顔を出すという話を聞いたから。

師岡親方が書いた「神田鶴八鮨ばなし」は、江戸前寿司の仕事や魚の旬、寿司職人の粋や修業の心構えというものを、自らの自伝と重ね合わせて生き生きと語った名著。寿司関連の本は何十冊も読んだが、これが一番心に残った。私の寿司屋巡りの原点とも言える本。

この本を最初に読んだのはずいぶん前で、一度はこういう江戸前の名店に行ってみたいものだと憧れたが、頻繁な寿司屋通いが可能になったのはある程度年齢がいってから。時すでに遅く師岡親方は引退。

その弟子店である「新橋鶴八」に通うようになってから、弟子である石丸親方は、師匠の師岡親方を「私を作ってくれた人」と呼び、教え込まれた寿司屋としての哲学をあれこれ語ってくれた。是非一度この伝説の寿司職人にお会いしたいと思っていたのだった。

まず受付を済ませて会場に入ると、会場には弟子や孫弟子による寿司屋台が4カ所に。「新橋鶴八」の現在の弟子、「しみづ」、孫弟子にあたる祇園「まつもと」もまたその弟子の北新地「ほしやま」を連れて。弟子筋ではないが、小僧の頃から「新橋鶴八」によく通っていたという西麻布「真」の屋台も。清水親方の前に店にいた兄弟子や、「しみづ」を辞めた「ストロング金剛」君も手伝いに顔を見せている。それぞれの屋台を回ってあれこれ雑談。「ほしやま」にはこの前出張帰りに寄ったが「まつもと」にも行かないとなあ。

開会の挨拶は、「鮨を極める」「奇人変人料理人列伝」を書き、新橋鶴八には開店の頃から通っているという早瀬圭一氏のユーモアあふれる絶妙なもの。そして師岡親方も登壇して挨拶。伝説の大親方の登場に会場からは拍手が。

宴が始まったが寿司屋台は、どこも大人気で混雑の極み。オードブルやしみづが大桶で出したバラちらしなど食しながら、酒ばかり飲んであちこち会場を回って人間観察。折よく石丸親方と師岡親方が二人並んで歓談しているところに遭遇。

前に店に行った時、師岡親方にお目にかかりたいと石丸親方にしゃべった事を覚えて頂いてたのか、石丸親方が気がついて、師岡親方に「こちら私の店のお客さん。この人寿司に詳しいの」と何故かこれまたエラク過分な紹介(笑)をしてくれて、しばし師岡親方のお話を聞かせてもらう。

「我々お寿司をお作りする担当者としてはね」、と語りだした口調に、おお、「神田鶴八鮨ばなし」の口調通りだ、と感動。本人だから当たり前か(笑)「職人は怖がらなければいけない」、「寿司屋として継承してゆくもの」の話など、本に出てない寿司哲学を伺えて素晴らしい体験。年齢なりに身体は具合よろしくない処もあるそうだが、姿勢よく矍鑠として頭脳は明晰。「それはこういうことですか」と私が確認すると「いや、それはちょっと違うな」と即座に返す部分も、「おお、本の口調とそっくりだ」と妙に感動。

「神田鶴八鮨ばなし」を読んで私がどれだけ感銘したか、この本こそが私の寿司屋巡りの原点であることをご本人に伝えることができたて満足。本の読者として、なかなかこんな経験はできない。師弟のツーショット写真も記念に撮らせてもらった。

そして宴は更に賑やかに続く。石丸親方の奥さんの手紙朗読も素晴らしかったし、音楽の演奏もあり、石丸親方の挨拶や花束贈呈など、実に印象深い会。「新橋鶴八」大常連の方々が司会や裏方やってたのだが、実に御苦労さまでした。最後は師岡親方と石丸親方、そしてこの会に参加したの弟子が全て壇上に登って記念撮影。「鶴八軍団」勢揃いでこれまた実に壮観。

「寿司屋を作るんじゃない、人間を作るんだ」という師岡哲学を叩きこまれた石丸親方が、「新橋鶴八」で育てた弟子が立派に育ち、その弟子、また更にその弟子が次々と独立している。よき師匠とよき弟子に恵まれた「新橋鶴八」にとって30周年は単なる通過点。まだまだ頑張ってもらえるだろう。「新橋鶴八」に通って実によかったと感じた夜。


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