97年から書き続けたweb日記を、このたびブログに移行。
伊藤計劃「虐殺器官」を読んだ。
文庫本を購入した「虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)」だが、途中まで読んでストップしてたので、電子本をKindle Fire HDにダウンロードしてカナダに持参。残りをイエローナイフのホテルで読了。

民族紛争でセルビアに原爆が落ち、テロ対策で個人認証システムが社会の隅々にまで張り巡らされている近未来社会。世界に内乱と民族虐殺を巻き起こす謎の男を追う情報軍将校は、彼を追い詰めるうちに彼の動機に疑問を持ち始める。

ステルス機から射出される、バイオメカニクスによる培養筋肉を装着した侵入ポッド。生体リンク・デバイスを装着したハイテク兵士など、物語に散りばめられた実に印象的な異形のイメージは、読者のセンス・オヴ・ワンダーを刺激して止まない。

物語の全編を流れる基調低音を成す「死」のイメージ。人間のDNAに組み込まれた「虐殺」を誘発する因子。そしてその因子を発動する修辞法。広がる宣伝文や演説はその因子に働きかけ現実世界に影響を与えて行く。追跡の末に明かされる、なぜこの男が虐殺のDNAを広めようとしていたかの真相。

アルジェリアのテロ事件に見るように、「アラブの春」は中東に「春」よりも混乱と、部族間、宗派間の対立をもたらしているかのように見える。アメリカ対イスラム、あるいは、キリスト教対イスラムの対立に満ちた現代社会を念頭に置いて読むと、更に背筋が寒くなるような結末なのだ。ハリウッドで映画化してもらいたいなあ。

著者の伊藤計劃のイマジネーションとストーリー・テリングの才能には感嘆する。しかし作家デビューの2年後に若くして夭折。プロローグのみ残した作品を円城塔が完成させた、「屍者の帝国」も奇想にあふれた素晴らしい物語だった。しかしどちらの作品にも色濃くまつわりつく死のイメージは、伊藤計劃が自分の死を予感していたからだろうか。

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