97年から書き続けたweb日記を、このたびブログに移行。
「ライフ・オブ・パイ」もうひとつの結末
先週、土曜日に「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」
(Life of Pi)を見た。



ブッカー賞に輝いたヤン・マーテルの原作をアン・リー監督が映画化。題名は最初、何のことかと思ってたが映画の冒頭で主人公の名前だと分かる。

フランス領インドに生まれた主人公の少年は、幼い頃から宗教に傾倒する。西洋と東洋が出会うインドで、ヒンドゥー教、キリスト教、イスラム教に神を探し求めた日々。そしてその少年の一家が、インドでの動物園を閉鎖し、動物をカナダで売るために乗った貨物船が嵐で遭難。救命ボートに逃れた少年は、沈没の混乱でたった一人で荒海に放り出されるが、ボートに乗っていたのは少年だけではなかった。

「トラと漂流した227日」と題名にあるように映画の大部分は、船倉から救命ボートに逃れてきたベンガル・トラに少年がどうやって襲われずに漂流を続けるかのサスペンスで彩られている。

そして3Dの映像が素晴らしく美しい。映画の冒頭、少年の命名由来となるパリのプールのシーン。澄み切った水の中をカメラが下に移動して泳ぐ男を見上げると、まるで男は空を飛んでいるかのよう。この印象的なショットは、大海原の漂流シーンでも繰り返される。

シーンごとに表情を変える海、海面を滑空するトビウオ、プランクトンに青白く光る海と巨大なクジラとの邂逅。少年が神を見た凄まじい嵐。極限状態の狭いボートでのトラとの駆け引きも、実に鮮明な映像で捉えられている。そして、幾多の試練を乗り越えて主人公が出会う結末。希望を捨てず努力すれば神は栄光を与える。過去の話として主人公が語るという叙述のスタイルも余韻を残してよかった。若き日のパイを演じたスラジ・シャルマも清々しい印象を与える好演。

救助ボート上のトラのシーンはほとんどCGによるSFXなのだそうだが、実によくできている。子供時代の動物園でのトラとの思い出は、船上でのトラに対する恐怖として蘇ってくる。映画として最後まで飽きさせずに見せる演出の技量は素晴らしく、物語も実に印象的に成立している。アン・リー監督のアカデミー監督賞受賞も不思議ではない。

しかし、映画後半に出てくる「浮島」のエピソードや、ギリギリの最終段階になって主人公が口頭で語り始めるもうひとつの驚くべきストーリーは、観客に奇妙な引っかかりを残すだろう。本当に小さな救命ボートでトラと227日も漂流できるのか。彼が最初に語った話は本当に全て真実なのだろうか、と。。。。。


=(さて、これ以降は映画の結末に関する情報と私の妄想を含むので注意!!=








そもそもこの物語は、実話を元にしておらず、全編がフィクション。映画の結末をどう取るかは観客の自由で幾通りもの解釈があってよい。しかし、サスペンスに満ちた航海の果てのハッピーエンドを語った物語の最後に、なぜ観客の心に引っ掛かりを残す明らかに荒唐無稽なエピソードや、もうひとつの物語という奇妙な齟齬が付け加えられているのだろうか。

「人食い島」の荒唐無稽なエピソードは、パイの話が結局のところホラであることを示唆しているのではないかとも思える。彼は物語を作るのに熱中して、つい語り過ぎてしまったのだと。

現実世界でも、精神世界オタク、パンタ笛吹の著作でも明らかなように、アガスティアの葉やサイババなど、神がかった話や精神世界的な話になると、インド人は結構ホラを吹く伝統がある(笑)

もうひとつ暗示的なのは、このベンガル・トラの名前。Wikiによるなら、このトラの名前「Richard Parker」は、エドガー・アラン・ポーの著作を始め、明らかに「海難」と「Cannibalism(人肉食)」にまつわる忌まわしい名前であり、偶然につけられている訳ではない。この名前を考えるなら、パイが保険事故調査員に語ったもう一つの物語こそ真実だ。救命ボートに乗り合わせたのは複数の動物ではなく人間であった。そしてパイこそが「人食いのトラ」。

事故調査報告に「トラと共に生き伸びた」と書かれていることについては、保険事故調査員の任務は、パイの生存ストーリーの真偽調査ではなく、事故の原因を突き止めるのが目的であることを思い起こさなくてはならない。

パイが調査員に語った真実のストーリーは、ひょっとすると、映画のラストで彼が語ったよりも、もっと陰惨な第三の真実だったかもしれない。しかしもはや誰にも真実を知るすべはない。大海原で漂流し、パイには他に生きる道は無かった。調査員は静かにファイルを閉じ、パイの語った最初のファンタジーを記録に残すことに決めたのだ。神様だってそれを選ぶだろう。最後にジャングルに静かに消えたトラはパイの犯した「罪」だ。そう考えると、映画のラスト、パイと小説家との会話がまた違った含意を持って思い出されてくるのだった。

So which story do you prefer?
The one with the tiger. That's the better story.
Thank you. And so it goes with God.




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