97年から書き続けたweb日記を、このたびブログに移行。
「チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド 思想地図β vol.4-1」
「チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド 思想地図β vol.4-1」(東浩紀編)読了。

事故から四半世紀を経たチェルノブイリ近辺では、事故を起こしたチェルノブイリ原発付近を「観光」として案内するツアーがあり、業者がいる。これはそのツアーで、福島原発事故後にチェルノブイリを訪問した記録。現地で撮影した写真も満載。

悲惨な事故や事件が起こった場所を観光として訪問して、それを深く記憶に留めようという「ダークツーリズム」という概念も実に興味深い。そして、現地で会った、チェルノブイリ近隣に今も住み、そこで生活する人々へのインタビューも実に印象的なもの。「チェルノブイリの森―事故後20年の自然誌」同様、チェルノブイリ近隣では、自然と共に、注意深く放射性物質と共存する人々の生活が営まれており、決して阿鼻叫喚の地獄ではないのだと深く得心がゆく。原発事故とその後の生活を知るためには是非書棚に一冊置くべき本。

ただ、ひとつ注文つけるとすると、チェルノブイリ事故の甚大さとその後のソ連政府のお粗末な対応について、せめて2ページくらいは割いて説明してもよかったのではということ。チェルノ事故の記憶は現地でも風化し始めており、「取材編」で元気に現地で生活している人々の声だけを聞くと、チェルノ事故の甚大さを過小評価し、かえって福島事故のほうを深刻に考えてしまうのではないかと危惧するところ。

この本を書棚に置くならば、福島事故前に書かれたチェルノブイリ事故を扱った本も、必ず一冊読むべきだ。

福島原発事故当初は、「レベル7」という尺度だけにこだわり、「チェルノブイリと同じだ!」、「福島はとっくにチェルノブイリを超えているのに!」とヒステリーになった人が多かったが、「原子炉の暴走―臨界事故で何が起きたか」や、「原発事故を問う―チェルノブイリから、もんじゅへ」等、一冊でも読んでいたなら、事故のレベルが違った事がすぐに分かったはず。

そして、この観点から気になるのは、この本、巻頭見開きの、福島事故とチェルノブイリ事故の比較。汚染地図は、福島と比較してチェルノブイリ事故の甚大さがよく分かるもので、なかなか優れた仕事。ただ、避難者数の比較に、「チェルノブイリ11万6,000人、福島14万6,520人」とあるのは奇妙だ。

これを見て、「福島のほうが避難者が多い」と早速ツイートしている人がいたが、同じ「ダークツーリズム」の69ページ「チェルノブイリ報道年表」では、事故当初「1986年に避難者13万5,000人」、「1989年にベラルーシで10万人が新たに避難」とある。単純に足したらこれだけで23万5,000人。福島の避難者よりずっと多いじゃないか。同じ本の中で避難者数に矛盾が生じているのはいただけない。

上記の、「原発事故を問う―チェルノブイリから、もんじゅへ」の取材では、1986年の事故直後の避難者が13万人。事故から3年後に初めて詳細な汚染地図が発表され、1991年のソ連最高会議で1平方キロ当たりセシウム137で15キュリー以上(55.5万ベクレル/K㎡)の汚染地帯からの強制避難が決定。新たに避難した者が27万人。避難者は合計40万人とされている。また、以前読んだ国連のチェルノブイリ報告では、55.5万ベクレル/K㎡以上の汚染地帯に住む人口が19万3千人ともあった。

当時はソ連邦崩壊の混乱期で統計もはっきりしない部分があるが、いずれにせよ、巻頭にある11万6,000人というチェルノの避難者は明らかに少なすぎる。少なくとも同じ本の中での数の矛盾は正さないと。再版では修正されることを望む。

そう考えてこの見開きの他の数値を見ても、どうも、極端な反核主義者がやる、嘘ついてもよいから素人を怖がらせて反核に引き込もうという「怖がらせ」バイアスのような態度が気になる。

燃料棒の数を、チェルノブイリ「1,661本」、福島「4,604本」としてるのだが、これを何も知らずに見たら、「福島はチェルノの4倍だ!」と金切り声を挙げる者が出てくるだろう。しかし、黒鉛炉とBWRとでは炉形も違い、燃料棒の本数は単純に比較できるものでもない。また、福島のほうには、メルトダウンには至らず、既にプールで冷やされている使用済み燃料プールの3,108本も何故か足してある。福島でメルトダウン起こしたのは、炉心にあった「1,496本」。チェルノブイリで反応度事故を起こし、木っ端微塵に吹っ飛んで、しかも減速剤の黒鉛に火がつき、数日間大気中に露出して燃え盛った燃料棒が「1,661本」と正確に伝えてくれなくては(笑)

事故機の数も、チェルノ「1」、福島「4」とある。まあ、確かに4つ壊れたとも言えるが、4号機は点検中で炉内は空っぽであり、メルトダウン起こしたのは福島では「3」機だ。4号機も水素爆発起こしたじゃないかというのなら、2号機は水素爆発起こしてないので、爆発した原子炉を比較するなら、やはり「3」が正しいのでは。

いずれにせよ、この本の見開きページにある比較数値は、なんとか福島の数字をチェルノブイリよりも過大に書いて「怖がらせよう」という意図を感じて、あまりフェアではない気がする。本自体の内容は実に興味深いのだが、この見開きだけは画竜点睛を欠く汚点だと思う次第。



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