97年から書き続けたweb日記を、このたびブログに移行。
「風立ちぬ」を観た
土曜日に「風立ちぬ」を観た。特段アニメ・ファンではないので、今まできちんと観た宮崎駿作品は、「風の谷のナウシカ」、「千と千尋の神隠し」、「もののけ姫」くらい。そうそう、前日のTVで「天空の城ラピュタ」も観たのだった。



宮崎駿自身が投影されていると思しい、零戦設計者の堀越二郎を主人公に据え、堀辰雄の世界から、肺結核を病む深窓の令嬢との悲しくも美しいラブストーリーを織り込み、「魔の山」やモネの絵を思わせる場面など、宮崎駿の個人的趣味嗜好を満載にして合成するとこの作品になる。

空想と現実が交錯する物語は実によく出来ている。作画は丹念で美しい。映画冒頭、少年の日の夢、朝日が一瞬にして大地を走り、飛行機が自在に天空を駆けるシーンで一瞬にして映画に引き込まれた。引きのショットでは、まるで実写かと思える細密な絵も多々あり。

飛行機設計に熱中し、常に「心ここにあらず」という主人公は、菜穂子との最初の出会いのシーケンスで描かれるように、善人ではあるのだが、自らの夢の実現のためには、何を捨てても顧みない、ある種のエゴイストとしても描かれる。ただ、映画の背景になっているのは、富国強兵から戦争へと突き進んで行くまだ貧しかった頃の日本。列強に追いつけ追い越せで技術開発に没頭していた男達は、皆そうだったのかもしれないのだが。

禍々しい戦争の悲惨は、主人公の夢に不気味に暗示されるイメージを除けば、ラストシーンにただ淡々と言葉で語られるのみ。空を飛ぶ零戦は、殺人兵器としてではなく、美しく空を自在に飛ぶ存在として描かれる。映画は主人公の夢と現実を行き来しながら、常に主人公が観た世界のみを描いてゆく。

全編を通じて風が吹いているのも印象的。何よりも高く、早く、そして自由に空を飛ぶ飛行機。美しき天空の夢だけを追い求めた、一風変わった男の情熱は、国の運命も、妻の運命をも突き抜けてただ空へ、風に乗ってその高みに向けて登り詰めてゆく。宮崎駿の、宮崎駿による、宮崎駿の尽きせぬ夢を描いた、宮崎駿のためのアニメムービー。しかし、きちんと大人の観客の鑑賞に耐え、大きな感動を与える力を持って成立している。まあ、小学生が観るにはちょっと厳しいかw

ただ、観客として気になったのは、やはり素人の庵野秀明が担当した主人公の声。声自体は悪くない。全て一本調子の棒読みは、むしろ、浮世離れして常に心ここにあらずという主人公に合ってるとも言える。ただ周りが達者な俳優だけに、肝心な場面での棒読みが周りからガタガタに浮く。

宮崎駿は、いわゆる、声優声優したプロが嫌いで役者や素人を使うと云う。私も洋画の吹替が嫌いなのは、声優の作り声の大仰な語りが演技とは呼べないから。今回も、役者を採用したパートは実に印象的だが、庵野の当てる主役の演技と落差が大きすぎる。あそこまで役者と素人の差が感じられると映画の価値を幾分か毀損してると思うのだが。まあ、生身の演技に拘らないアニメ好きなら、あれでも気にならないのかもしれないが。

エンドロールに流れる歌、松任谷由実「ひこうき雲」もよかった。青空と死のイメージが交錯する実に印象的な歌詞。映画のモチーフにもよく合っている。洋画なら、エンドロール流れたら続々と席を立つ観客が、この日はほとんど最後まで席についていた。そうだ、DVD出たら買わなくては。

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