97年から書き続けたweb日記を、このたびブログに移行。
DVDで歌舞伎「勧進帳」を見た
「歌舞伎名作撰 勧進帳」を観た。2004年の発売。先日亡くなった市川団十郎が武蔵坊弁慶を演じた舞台を収録したDVD。

「勧進帳」は歌舞伎十八番の中でも屈指の人気演目。特に弁慶は、市川団十郎宗家の「家の芸」として伝承されている。能を参考にした歌舞伎にしては簡素な舞台。筋書きもストレートだが人間のドラマとして観客にカタルシスを与えるツボをしっかり押さえた名作。

兄頼朝の怒りをかった源義経は、配下の四天王と武蔵坊弁慶と共に奥州へ逃げる。その際に差し掛かった安宅の関が舞台。鎌倉よりは山伏姿に身をやつした義経一行を通行させるなと関所に厳命が来ており、義経は荷物運びの人足に扮装し、弁慶が先頭に立って、関守富樫左衛門の詮議を受けることとなる。

東大寺修復の勧進(寄付を募ること)を行うための旅であると説明する弁慶に、富樫は、ならば勧進帳(寄付の趣意書)を読み聞かせよと問う。もとよりそんなものは持参してないが、機転をきかせた弁慶は、何も書いてない巻物を広げ即興で、勧進帳を天にも届けと大音声で読み上げる。この弁慶がカマすハッタリが観客をうならせる最初の見せ場。

その後富樫は、本当の山伏ならば答えられるはずと修験道の教義について問答をしかける。富樫役は2011年に81歳で没した中村富十郎。弁慶相手に丁々発止と繰り広げられる、年齢を感じさせない口跡が素晴らしい。

この問答でいったん疑いを説いた富樫は通行を許すが、義経が身を騙った強力(荷物持ち)が、義経に似ていると富樫配下の者が見咎める。このへんの安堵と再びの緊張が繰り返されるサスペンスも実によい。

弁慶は、お前のような者が義経に似ているせいでとんだ疑念を受けている、なんといまいましいとさんざんに主君である義経を金剛杖で打ち据えて見せるのだが、関守の疑惑は消えない。

義経配下の四天王が、「もはやこれまで。後は斬りまくって血路を開くしかない」と決死の決意をして刀の束に手をかけ、関守一向に迫るのを弁慶が必死に押しとどめる。「詰め寄り」という名場面だが、まるで動く浮世絵のように様式化されているものの、緊迫感があり実に美しい。リアルでないリアル。まさに歌舞伎の美と醍醐味を凝縮した場面。配下には新之助時代の海老蔵も出て親子共演。

そこまで詮議なさるのなら荷物持ちはお渡ししますが、その前に打ち殺してから行きますと弁慶が更に詰め寄ると、富樫は弁慶が主君の義経を守るために必死の大芝居を打っているのだと悟り、心を打たれて関所通過を許すのだった。この辺の演出も実に上手い。

義経はあまり出番がないのだが、尾上菊五郎が気品高く演じている。市川団十郎が出ずっぱりで歌舞伎屈指の大役を見事に演じる。

歌舞伎というのは事前にストーリーが分かっていても、楽しむのに問題はない。むしろ例えば勧進帳として読み上げるのが白紙の巻物である事を事前に知らなければ、作品のサスペンスが減じてしまう。昔の人の常識が全て伝承されているとは限らないから、歌舞伎の様式美を楽しむにはやはり予備知識あったほうがよい気がするなあ。

弁慶最後の見栄と、急いで義経一行を追う体で花道を下がる時の所作「飛び六法」が最後の見せ場。これもまた印象的。歌舞伎は実に面白いねえ。歌舞伎座三月大歌舞伎の夜の部は、中村吉右衛門が弁慶を演じる「勧進帳」がかかる。観に行かなくては。


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