97年から書き続けたweb日記を、このたびブログに移行。
「松本幸四郎「勧進帳」 999回静岡公演・1000回東大寺記念公演」DVD
Amazonで買ったDVD、「松竹大歌舞伎 松本幸四郎「勧進帳」~999回静岡公演・1000回東大寺記念公演」を観た。

勧進帳は、昭和18年の七代目松本幸四郎をDVDで。十二代目 市川団十郎 もDVDで。歌舞伎座の公演では三月大歌舞伎にて、先日、中村吉右衛門の舞台を生で見たのだが、それぞれの名優が演じる弁慶は、微妙な所作のニュアンスが違ってなかなか面白い。

「勧進帳」そのものは、「安宅の関」をもじって「またかの関」とも呼ばれるほど何度も上演される、歌舞伎十八番の中でも屈指の人気狂言。まったく歌舞伎を観たことが無い人が入門で見るにも好適。歌舞伎独特の様式美に満ちたリアルでないリアル。シンプルな中にきっちりと観客にカタルシスを与える分かりやすい演出。これが面白くなければ、まあ他のどの歌舞伎を見ても理解不能だろう。

このDVDは、生涯に1600回も弁慶を演じたという七代目松本幸四郎を祖父に持つ当代の松本幸四郎が、自らの1000回目の「勧進帳」を東大寺大仏殿で演じたダイジェストと、その直前公演となった999回目の静岡公演を収載したもの。

「勧進帳」では、義経一行は東大寺修復勧進の山伏であるという設定になっており縁が深いため、大仏殿を記念すべき1000回目公演の場に選んだのだろう。ただ野外の特設ステージで夜間に行われた公演のため、録音と撮影にどうしても難あり。

狂言の完全版は直前に行われた999回目公演を全編収録してあるので、そちらを見てくださいという趣向で2枚組のDVDに。舞台の設営や公演準備、松本幸四郎のインタビューなどの特典映像があるのも面白い。そして「勧進帳」は「勧進帳」であって、やはり誰が演じても圧巻の面白さなのだった。

またこのDVDは音声解説が印象的。弁慶が義経を半死半生になるまで金剛杖で打ち据え、これでも疑いが晴れぬのならこの場で強力を打ち殺しましょうと言い放った時、富樫はなんとしても主君を助けようとする弁慶の忠義に深く心打たれ、強力が義経であるのを知りながら、「疑いは晴れた」と宣言する。義経を見逃して頼朝の怒りを買っては富樫自身が死罪にされかねないのだが、この場面で富樫は自らの死を覚悟しながら、弁慶と深い魂の邂逅をしたのだった。

関を通過した後、一行を追って来た富樫が弁慶に酒を振舞い、最後の幕引きに舞台中央に出て右手を高々と上げて見得を切るのは、もはや二度とは生きて会えないであろう弁慶との今生の別れを告げているのだった。

ごく初期の演出では、富樫は弁慶に欺かれた凡庸な男として描かれていたらしいが、四代目市川小團次はここに更に工夫を凝らした。弁慶の嘘を見破りながら、その忠義に感じ入り、涙を浮かべながら通過を許す。この演出により富樫という役が弁慶に匹敵するほど深くなった。歌舞伎が人々のエモーションを揺さぶるため、実に細かい演出をリファインし続けていることがよく分かるお話。

このDVDでの富樫役は、松本幸四郎の実の息子、市川染五郎。実に凛々しく演じており印象的なのだが、やはり富樫はジジイが演じたほうが、なんとなくよいような気がするなあ(笑)


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