97年から書き続けたweb日記を、このたびブログに移行。
「球童 伊良部秀輝伝」
「球童 伊良部秀輝伝」読了。

野球選手が早い球を投げるのは、練習によってではなく、持って生まれた才能だという。伊良部は恵まれた才能で周りが眼を見張る剛速球を投げ、若い頃から投手としての頭角を現した。しかし、人間としては、人見知りして他人には心を固く閉ざして開かない。上から偉そうに押さえつけられると倍返しで凶暴になって暴れる。売られた喧嘩は必ず買う。しかし心を開いた人間から、静かに諭されると涙を流して謝ったのだという。

本人ですらもてあまし飼い慣らせなかった心の中に潜むデーモン。有り余る才能でメジャーリーグにまで到達するが、人間関係でトラブルをあちこちで起こし自ら世間を狭くしてゆく。

ヤクルトの元総監督大沢親分はドラフトで伊良部を獲らなかった理由を、後年「あいつは目付きが悪かった」と言っていたそうだが、この本では高校にわざわざ練習を見に来たプロの大沢監督に何の気も使わず、適当に投げて「もういいですか」と練習を上がった伊良部に、大沢は腹を立てたからなのだという。

乱暴者であり、もめるとすぐに手が出たが、しかし、投球に関しては、ちぎっては投げちぎっては投げと体格にまかせて無茶な事をやっていた訳ではない。足の踏み出し方や最後まで球の出所が見えない投球フォームについて細心の注意を払って練習し、心を開いた選手たちとは倦まずに何時間でも眼を輝かせて野球談義をしていたのだという。

日本球団の理不尽に一切後に引かず、結局後輩達がポスティングでMLBに移籍する道を開いたニューヨーク・ヤンキース移籍の顛末も、実に興味深いもの。団野村は日本球団からは蛇蝎の如く嫌われているが、日本野球にも本来、野球選手を野球だけに専念させるためにも、きちんとしたエージェントが必要なんだよなあ。

MLB退団後はLAでうどん屋を開いたが結局それも成功しなかったようだ。家庭内にもあれこれ問題があったというが、結局のところLA自宅で謎の自殺を遂げることになる。才能にあふれ、野球の事だけはまるで童子のように大好きだった男の気の毒な末路。

沖縄生まれで実父はアメリカ軍人。この出自によってうけた差別も彼の人格形成に大きな影響があった。著者はアメリカで実父に再会しインタビューが巻末に。沖縄で適当に女性と付き合って、子供も出来たが、いずれアメリカに呼ぶからと米国帰任してそれきり。当時はこんないい加減な米兵がたくさんいたのだろう。この実父もロクデナシの部類だ。

もっとも子供は親を選べない。伊良部はアメリカで実父に一度会ったらしいが、それきり。著者とのインタビューでは、MLBには父親を探しに来たわけではないとキッパリ否定している。逆に心にどれだけ大きな傷を彼が抱え続けていたかが窺えるようなエピソード。しかし、それでもなお、自殺などする必要なかったのになあ。

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