97年から書き続けたweb日記を、このたびブログに移行。
「1964年のジャイアント馬場」
「1964年のジャイアント馬場」読了。

著者の柳澤 健の本では、以前、読んだ「1976年のアントニオ猪木」が実に面白く、同じ著者が今後はジャイアント馬場を題材にしたノンフィクションを書いたとのことで購入したもの。これも大変面白い。

馬場が力道山の後継者となり全日本プロレスを率いるまでの物語は、梶原一騎原作の漫画「ジャイアント台風」などで触れられてはいたのだが、アメリカに渡った修行時代の実像を克明に発掘して描いたところが珍しい。

生まれた時から人並み外れた長身で履く靴にも困った馬場は、プロ野球選手となり巨人に入団。3年連続二軍では最優秀投手となったものの、一軍で大成することはなく退団。当時力道山が大活躍していたプロレスの世界に身を投じることとなる。

20代でアメリカ武者修行に出た馬場は、アメリカ人レスラーをも凌駕する肉体とその身体能力で、アメリカの観客を驚かせる。そして金を稼げるレスラーとして、アメリカの人気レスラーとメインイベントを張るほどまでに。

力道山のアメリカ修行は、日系人の多いハワイやサンフランシスコのみで、アメリカでの知名度も極めて限定的であったが、東海岸や南部もツアーで回り、その巨大な体躯を活かして各地で活躍したジャイアント馬場は、真の「ワールド・クラス」のレスラーであり、卓越したアスリートであったのだ。

この本には若き20代のジャイアント馬場の写真も掲載されているのだが、2メートル9センチの長身に、筋骨隆々。胸も厚く腕も足も太い。20代の馬場は、晩年にお笑い芸人が珍妙に「アッポー」と物まねする、あの胸板薄く手足の細い馬場ではなかった。

ジャイアント馬場が活躍した当時のアメリカ・プロレス業界事情を描いた部分も実に興味深い。アメリカン・プロレスは、TVの全米ネットワークでは中継されず、西海岸や南部、中西部、東海岸など、アメリカ各地のローカル局のみが中継する興業。NFL、MLB、NBAなどアメリカは全米ネットワークを張り巡らせたプロスポーツのメッカであるが、既にこの時点でアメリカのプロレスはスポーツではなく、あくまでもショーとみなされていた。実際のレスリングの強さよりも、役柄を演じて観客を熱狂させるものがスターになる興行。

力道山が始めた当時から今日に至るまで、日本のプロレスでは、レスラーはどこかの団体に所属し、所属するレスラーには自ずから団体内での序列がある。しかしアメリカのプロレスラーはみんな個人事業主で、自分でプロモーターと契約し、各地のリングに上がる。虚実に満ちた興業としてのプロレスの裏面は、ミッキーロークが主演した「Wrestler」に描かれたとおり。各地のリングで人気を博すれば、プロモーターに見込まれて、自力でスターの座に登り詰めることも夢ではない。

アメリカで既にスターであったジャイアント馬場はそのままアメリカに残らないかとのオファーも受けたが、力道山の死に際し、その後継者となるために日本帰国を決意する。

その後の日本プロレス界の隆盛を扱う部分もなかなか興味深い。アメリカでの成功体験から、外国の大型レスラーを呼び、日本人の大型レスラーと戦わせるという、アメリカ流のショーアップされたプロレスに最期までこだわった馬場。アントニオ猪木には、アメリカ遠征でも馬場ほどの成功体験はなかったが、逆にアメリカではショーマンシップの無さからまったく人気が出なかったカール・ゴッチのストロング・スタイルに傾倒してゆく。

レスラーとしての馬場が不運だったのは、肉体の衰えが早かったこと。この本では馬場が昔脳下垂体腫瘍の手術をしていることから、あの巨体は成長ホルモン異常による巨人症の影響であり、成長ホルモン過多によって巨大化した肉体は老化も早いのだと示唆されている。私の記憶にある頃の馬場には既に、分厚い胸板や太い手足は消え去り、ガリガリに痩せて、「アッポー」とやっていた。アントニオ猪木がある程度の年齢までプロレスラーらしい体型を維持していたのとは対照的だったなあ。

ジャイアント馬場も晩年は、おぼつかない足取りで、前座の試合で観客を沸かせるためだけに出場していたが、61歳で癌により亡くなる。しかし20代にアメリカ遠征した頃の「世界の馬場」伝説は本当だったのだ。

実に興味深く読んだが、同じ著者の、「1976年のアントニオ猪木」が、猪木が1976年に戦った3戦だけの「リアル・ファイト」に焦点をあてた研ぎ澄まされたノンフィクションであったのに比して、本作は、若干記述が間延びして筆が荒れている感はある。しかし若かった頃のジャイアント馬場の真実と、昭和のプロレス史を俯瞰するまとめとしても興味深いもの。

読了してからミッキー・ロークの映画、「レスラー」を見直そうと思ったが、アメリカで買ったDVDがどこに行ったか分からない。再度日本版を購入してしまった(笑)。


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