97年から書き続けたweb日記を、このたびブログに移行。
「新ばし 笹田」。そうか、初訪問から10週年の夜。
木曜日に「新ばし 笹田」訪問。実に間が空いてしまった。カウンタ一番乗りだったので、笹田氏に昨今の景気を聞いたり。商売繁盛のようで結構な話。若い新人が入っている。料理学校出て春に店に入ったとのこと。そうか、その頃からずっと来てなかったのだとちょっと反省。

新人は元気よく、動きもキビキビしており、親方の笹田氏や先輩弟子の一挙手一投足を真剣に見つめて、チャンスがあれば、私がやります、やらせてくださいと懸命に頑張っているところも好ましい。ちょっと松山ケンイチに似てるな(笑) やる気のある新人というのは何の仕事でも清々しい。この初心を持ち続けてほしいが。先輩の海老蔵似のお弟子さんも随分と手慣れた仕事ぶり。後輩が出来ると先輩が成長するのも仕事を問わない。

「笹田」は、この6月が前の店から通算で開店10周年だったそう。私が前の場所に「新ばし しみづ」から紹介を受けて初めて訪問したのが開店直後、2005年の10月。私にとっても今月が訪問10周年。間にアメリカ駐在の5年間が入っているとは言うものの、光陰矢の如し。もう10年経ったとは信じられない、年取るはずだと、笹田氏や奥さんと雑談。

まず冷酒を。磯自慢純米大吟醸。吟醸香あり、口に含んだトロリとした甘味はすぐに切れのよいサラリとした後口に変わる。食前に好適。

鮎の時期をすっ飛ばしてしまった事を悔やんでいると笹田氏は、「しかし今は松茸が全盛なんです」と山盛りの松茸を見せてくれる。

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長野と岩手は今が盛り。しかしそのピークも後2週間くらいとのこと。極上食材の旬は短い。「後で土瓶蒸しもお出ししますが、一本焼きますか」と聞かれたので早速注文。笹田氏は、傘が開いてない物の香りを確かめ選び出した一本を焼き場に。

最初に供されたのは焼き鱧の押し寿司。鱧は皮目の香ばしい焼き具合と身肉に乗った旨味。酢飯もいわゆる関西押し寿司風ではなく、米粒の立った美味さ。香りの良い茶豆を添えて。

焼き上がった松茸は長野産。一本を縦4つに割って。香りが立ち、身には水気もあり、しっかりした歯ごたえもある。口中から腹の中まで全て松茸の香りが充満する。日本の秋だ。

酒は、農口純米吟醸、生原酒に切り替え。香りは穏やか、口に含むとかなり濃い旨味と酸味を感じるが、それが甘味へと変わり、最後にはすっと切れの良い後口へ転じる。頑固親爺の魔術を見せられたような酒(笑)。

ここの名物、ナガスクジラの尾の身が供される。臭みも癖もない、ただ比類無い豊穣な旨味だけが身肉にある。ほんの3切れの至福。

なんだか笹田氏自らが揚げものをしている。ここで揚げ物というと春先の白魚以外は、秋口に添える銀杏くらいと思っていたが、ずいぶん真剣に長い時間かけているな、と思ったら、出てきたのはアワビの唐揚げ。

葛粉を軽く叩いただけで、じっくり揚げて旨味を封じ込める。銀杏を添えて。塩さえ使っていないというがしっかり味があるのに驚く。馥郁たる旨味も更に凝縮され、身にはしっかり歯ごたえがあり、ちょっと鶴八系塩蒸しのプリプリした感じも彷彿とさせる。初めて食したが、揚げるという調理法の奥深さを再確認できた美味。「京味」でやっていた仕事だとのこと。

壬生菜と油揚げの炊合せは、炒った胡麻の濃厚な香りがアクセントに。見てくれは普通のおばんざいだが、調理にはちゃんと手がかかっている。この店に戻ってきたなと安堵を感じる味。

店は大分立て込んで来たが、厨房内が3人になり、前のお弟子さんも随分と成長した感あって、オペレーションは慌てた感なし。つなぎの肴にイワシの佃煮を貰う。お酒に実によく合う。農口をまたお代わり。ゆるゆると酒で舌を洗いつつ、陶然と素材を活かした山海の美味にも酔う。和食の素晴らしい世界。

笹田氏は、どんなに立て込んでも、料理が出る度に他のお客の相手もしながら、それとなく前に来て真剣な顔で感想を聞く。「お造りは、タイ、天然のシマアジ、甘エビ、カツオとありますが、どうしましょう」と聞かれ、一瞬考えると「少しずつ全部お出ししますね」と。この店がお勧めの旨い物はなんでも食べたいから、考えるまでもなかった(笑)

シマアジは確かに天然のプルンとした食感と上品な脂。タイも旨い。立派な節のカツオは切る寸前に串を打って皮目を炙るのだが、皮目に当てた塩だけでも食せるくらい癖の無い旨味あり。

お椀は、松茸の土瓶蒸し。細かく骨切りした鱧の上品な脂と旨味が溶け込んだ精妙な出汁の美味が素晴らしい。雑味やくどいコクが無く、澄んだ旨味だけを含んだ出汁と松茸の香り。秋の味覚の至福だ。焼き物はカマスの幽庵焼き。身肉に脂がよく乗り歯応えも良く濃厚な味わい。煮物は、タコと小芋、かぼちゃの冷製。

最後は炊飯土釜で炊いた艶々の御飯。御飯が旨いと称する店も多々あるが、ここの炊立て御飯に勝る処は知らない。下働きにまかせてるのではなく、笹田氏自身が、料理の一品としてきちんと水加減し火加減も全て見ているものなあ。ちりめん山椒とお新香も実に旨い。お焦げも貰って。最後は冷製の白玉ぜんざい。甘い物はあまり好きではないが、ここのはむしろ豆の旨味が感じられるほどよい甘さ。

会計のほうは松茸の分があるので何時もより若干上回ったが、払った金額を優に上回る充実感あり。また頻繁に来るようにしなければ。入店時に預けた傘は、雨が上がった事を見計らい、キチンとたたまれて奥さんから手渡される。ご夫妻で外に出て、深く頭を下げての見送り。

10年前はカウンタだけ、元寿司屋が出た後を居抜きで借りた狭い店舗。お手拭きやナフキンもまだ紙製で、開店当初は、ほとんど他のお客が居ない夜もあった。

しかし、自ら毎日市場に行って良い素材を厳選し、真面目で何一つ手抜きしない真っ直ぐな仕事を貫き通したこの10年で、お客はどんどん増え、ミシュランの星も付き、広い新しい店に移転して、押しも押されもしない名店に。

料理には、奇を衒った珍奇な食材の使用や押し付けがましい華美なプレゼンテーションなど一切無く、食材や調理についての自慢話など一切無いが、聞けば何でも真剣に答えてくれる。何時来ても真面目な笹田氏の人柄には感心する。

一流の料理人になろうと志し、名店での厳しい修行の後でなんとか自分の店を開いた青年の夢は、10年を経てごく真っ当に、きちんと成就したのだ。大して売上に貢献してないのは忸怩たるところだけれども(笑) その成功の軌跡をごく初期から見届ける事ができたのは、偶然とはいえ実に幸せな事。今後の航海の無事と成功も心からお祈りしたい珠玉のような店だ。満ち足りた気分で帰路に。


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コメント
この記事へのコメント
本筋ではないところへの反応ですが
松茸の香りが思い浮かんで、よだれが出そうになりました。
うぅぅ、美味しそうです!
2015/10/04(日) 07:57:37 | URL | uyouyo #vQU5PwVA[ 編集]
松茸はやはり日本産ですね。

北米産松茸も歯応えはあるんですが、香りがあんまり。最近、メキシコ産松茸が日本にも輸入されてますが、こちらのほうが日本産に近いですかね。
2015/10/04(日) 13:35:36 | URL | Y. Horiucci #-[ 編集]
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