97年から書き続けたweb日記を、このたびブログに移行。
「スポットライト 世紀のスクープ」を観た
連休二日目の土曜日、「スポットライト 世紀のスクープ」を観た。

「ボストン・グローブ」紙が告発したカトリック教会の暗部。小児性愛者の神父達が児童を性的虐待している事をカトリック教会が知りながら隠蔽していたという大スキャンダルを報道した実話に基づくドラマ。トム・マッカーシー監督。本年度アカデミー作品賞、脚本賞受賞。

実に重たいテーマを扱っているのだが、派手ではないものの重厚な演技派が脇役に至るまで揃い、見ごたえある映画に仕上がっている。

ボストン・グローブ紙で「スポットライト」という特集コーナーを率いるデスク役のマイケル・キートンは、昨年度のアカデミー作品賞「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」に続き、作品賞受賞作品にに2年連続主演ということになる。

「スポットライト」チームの熱血記者を演じるマーク・ラファロは、DVDで先日購入した「フォックスキャッチャー」の金メダリストの兄、デイヴ・シュルツだったとは後で調べて気付いた。スティーブ・カレルもそうだったが、実在のモデルがいるので相当特殊メイクなどで印象を変えていたのか、本作と同一人物と思えないほど。新任編集者バロン役のリーヴ・シュレイバーも、何処かで観たことあるようなと思ったら、先週観た「フィフス・ウェーブ」の軍人役。

「ボストン・グローブ」にやってきた新任の編集長が、数年前に一度だけ掲載されたカトリック神父を巡る醜聞について何故もっと調査報道しないのかと疑問を持ったところからドラマが始まる。派手な演出は無く、丹念に事実を追跡してゆく記者たちのドラマは、台詞劇として淡々として描かれるのだが、演技派を揃えた俳優陣には重たい迫力があり、脚本も優れている。2時間8分はあっという間。

成人した虐待被害者を演じる役者たちにも異様な迫力あり。尊敬する聖職者からの性的虐待は、身体的な虐待に留まらず、子供心に持っていた素直な信仰心を根こそぎに粉砕する、魂の虐殺なのだ。「彼らはまだ幸運なほうだ、生きているんだから」という台詞は、精神を病んだり自殺した被害者も多いことを示唆するなんとも悲惨なもの。この辺りは、無宗教の日本人には少し分かりづらいところでもあるのだが。

問題を起こした神父が送られるカトリック内部の療養施設で働き、後に告発者に転じた元神父がカンファレンス・コールで取材チームに語る、神父たちの6%程度が性的倒錯者だという見積もり、聖職者には妻帯を許さず純潔を求め姦淫を厳しく禁止するカトリックの戒律がむしろ神父たちにプレッシャーを与え異常にしているという示唆は、なんとも背筋がひやりとするもの。

ネットでは、「カトリック教会の組織的な闇、ボストンという町の閉鎖性と偽善とタブーが描かれていない」という感想もみかけたが、勿論きちんと描かれている。脚本賞は伊達ではない。ただ全面的に会話劇なので、字幕だけでは主人公たちの微妙な心理の機微や苦悩が伝わって来なかった観客もいるのかもしれない。英語のセリフがある程度聞き取れると随分助けになるのだが。

カトリック教会との秘密裡の示談について頑なに打ち明けなかった弁護士が、かつてボストン・グローブに一度だけ告発リストを送っていたと語る場面。調査を続ける「スポットライト」編集長の母校でも、学校に配属されたカトリック神父に性的虐待の過去があり、それを追求するために母校を訪ねた時の緊迫したシークエンス。

どの場面にも、真実を巡る緊迫した追求の応酬と攻防の虚実が、ボストンという古い街と、そしてカトリックという古い宗教を背景に映り込んでおり、重厚で実にシリアスなドラマとして見事に成立している。ボストンの街並み、自動車やオフィスの内部など、舞台となった2002年当時の雰囲気もよい。DVD出たら買わないと。

何かおかしいと思いながらも、見過ごしたことによって社会から葬ることが出来なかった邪悪。守れたかもしれない子どもたちへの被害。過去に伝えなかった事に対する主人公たちの後悔と苦悩も印象的に描かれる。しかし、ラストシーンとエンドロールは、報道によって社会を変えることができるというポジティブなメッセージを観客に伝えるもの。

世界の一部には異常者やおぞましい犯罪や欺瞞が存在しているのは事実だが、そんな闇は見たくないという人にはこの実録ドラマはむいていないかもしれない。しかし闇を照らす真実の光もまたあるのだと信じる人には、これは観るべき映画だろう。


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