97年から書き続けたweb日記を、このたびブログに移行。
歌舞伎座八月納涼歌舞伎、第三部を観た
夏休み最後の週末、土曜日は歌舞伎座八月納涼歌舞伎第三部。

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納涼に大幹部は出演しないが、染五郎、猿之助、橋之助が主演を務める。三部制で短い時間で観劇できるのもなかなか便利。第三部の開始は6時でもう暑さも和らいでいた。

最初の演目は、「新古演劇十種の内 土蜘(つちぐも)」。松羽目物の舞踊劇。橋之助は中村芝翫襲名前の最後の歌舞伎座で、来月同時襲名する三名の息子を率いて、主役である叡山の僧智籌実は土蜘の精を演じる。

中車の息子の市川團子が太刀持ちを演じる。大事な所で台詞もあり、子役にとっての大役。なかなか達者で感心した。親父が相当仕込んでいると思うのだが、今月は親父は歌舞伎座出演無し。まだ子供だし面倒は誰が見てるのだろうね。歌舞伎に限らず、子供の頃からヘンに達者だと、小さく固まってしまって大人になって伸びないのが人生の常という気もするけれど。

前半は舞踊が続く。舞踊というのは、まあこちらの責任なのだが、やはり何を見るべきか、それぞれの動きがどんな意味を持っているか、などの基本的な素養が無いと分からない部分が多い。こればかりは今更日本舞踊習う余裕など無いから仕方ないなあw

橋之助は叡山の僧智籌実は土蜘の精。花道の出は何時しか忽然と現れて実に不気味な印象。團子に正体を見破られて立廻りになり蜘蛛の糸を発して逃げる。後見は蜘蛛の糸の片付けに大わらわだ。

猿之助、勘九郎、巳之助三人の番卒は軽妙で舞台の雰囲気が変わる。石神の像では勘九郎の次男が登場。最初は後見が操る人形かと思ったが、あんな小さいのに舞台に出るとは。

橋之助が蜘蛛の精として再び現れてからの立廻りは実に不気味で圧巻であった。ここで30分の幕間。

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花篭で「納涼御膳」を。まあ普通に「ほうおう膳」のほうがよかったかも。三部制だと食堂も結構空いている。

切の演目は、新作歌舞伎 「廓噺山名屋浦里(さとのうわさやまなやうらざと)」

笑福亭鶴瓶の落語を歌舞伎化。もともと歌舞伎は能、人形浄瑠璃、落語、瓦版を騒がせた世間の事件などを自由に題材に取り入れてきた歴史。古い作品の古層には、当時の人しかもう分からない世相やユーモア、常識などが積み重なっている。逆にまったくの新作歌舞伎だと、そういった不明部分が無く、イヤホンガイド無しでも物語の全てを観客が理解できるから、実に分かりやすいお話となっている。

参勤交代の合間、殿様がいない江戸留守居役は寄り合いと称して藩の金で遊興に興じて贅沢三昧。真面目で実直で、田舎者の堅物と嘲られる酒井宗十郎を勘九郎が演じる。これはニンにあるので手慣れたもの。寄り合いで宗十郎を「田舎者の野暮天」と嘲る秋山は彌十郎がこれまた手堅く演じる。

隅田川での花魁浦里と酒井の出会いは、ちょっと「籠釣瓶」を思い出す印象的なエピソード。一本気に吉原までやってきた酒井の相手をする「山名屋」主人平兵衛を演じる扇雀は、酸いも甘いも噛み分けた苦労人ながら、商売人としての筋は一本通すという、吉原の大店主人の風格を感じさせる。最後の場面、奉公人を演じる鶴瓶の息子駿河太郎と関西弁で、「俺にもまだマトモな心が残っていたのかな」と染み染みと述懐する場面も良い。扇雀は二枚目であるから、こんな立役も似合うな。

七之助の花魁姿も華麗だし、「やはり江戸の妻を帯同せず一人で来たか」と宗十郎が散々に笑われる宴席に、燦然として花魁衣装で現れ、皆の度肝を抜く場面も美しいカタルシスを持って描かれる。そしてお礼に来た酒井に自らの生い立ちを語る場面。廓言葉ではなく(廓言葉というのは、田舎から買われてきた娘達の訛りを隠すために、大仰に皆同じ語り口で喋らせたそうであるが)故郷の訛りで話だすという設定も、吉原が本当は苦界なのだという厳然たる事実を感じさせながら、実はまだ汚れていない花魁の本音の心をさらけ出す部分。

傾城の花魁も吉原大店の主人も、自身が幾多の苦労を乗り越えて来た身だからこそ、直情径行で真面目な侍が追い詰められた危機を救うために、その願いを叶えてやろうとするのだった。

華やかな花魁道中で終わるのも爽快。以前に中村屋兄弟で演じた「鰯売り」ともどこか似ている。落語になった原型は、「ブラタモリ」で取材した今の千束町、昔の吉原で聞いた話とイヤホンガイドで聞いたが、実話というよりも、そこには一種江戸の夢物語が伝承されているのでは。歌舞伎のお約束の中で、廓を舞台にした人情話に手慣れた印象で仕上がっており、大変分かりやすく楽しんだ。


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