97年から書き続けたweb日記を、このたびブログに移行。
「芸術祭十月大歌舞伎」初日昼の部。
先週の日曜日は「芸術祭十月大歌舞伎」初日昼の部。口上がある夜の部は人気で思うような席が取れなかったので、取り敢えず昼の部から。

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成駒屋、中村橋之助一家総出の襲名披露公演でもある。

中村橋之助改め 八代目 中村芝翫
中村国生改め 四代目中村橋之助     
中村宗生改め 三代目中村福之助
中村宜生改め 四代目中村歌之助  

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と4名の襲名を記念する賑やかな副題がついており、歌舞伎座表にも立派な看板が。

入場してみると、着物の女性も何時になく多いし報道のカメラも入っており、襲名披露公演ならではの華やかさを感じる。


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初日昼の部、真っ先にかかるのは、「初帆上成駒宝船(ほあげていおうたからぶね)」

祝い幕が引かれ始めた途端、鶏爺さんの発した「ウニャワラワヤ~」と云う意味不明の弱弱しい大向こうをかき消すかのように万雷の拍手が。歌舞伎座に来たという気がするなあ(笑)

今回の襲名披露用に作られ、成駒屋三兄弟が一緒に踊る新作の祝祭舞踊。長男は二十歳。二男は大学生、三男はまだ中学生なんだそうだが、きちんと踊りの稽古をしたことが伺える。イヤホンガイドによると、元橋之助にして新芝翫の姉、すなわち三兄弟の叔母が踊りを指導したと。可愛い甥っ子達の襲名披露舞台の指導であるから随分と気合いが入ったろう。

連れ舞の後は舞台が暗転し、大きな宝船に乗って三人が再び登場。背景の書き割の遠景には歌舞伎座や東京の高層ビルが描かれている。時代を越え行く若者たちの船出を祝うシュールな演出。目出度い舞台を見物できて良かった。

しかし歌舞伎の名家に生まれた御曹司でなければこのような扱いはしてもらえないのも事実。彼らは船出の時から、ある意味既に宝船に乗っている恵まれた境遇。まあ、歌舞伎の御曹司に降りかかる一番の災難というと後ろ盾である親父の早世であるが、親父も不徳の致すところながら元気そうであるからして心配無いか(笑) 三人いるなら一人くらい女方を目指してもよさそうだが。

20分の幕間の後、「女暫(おんなしばらく)」。 以前、2015年の「壽初春大歌舞伎」に玉三郎で出たのを観た。

「暫」は歌舞伎十八番の荒事。悪玉によって善玉が斬られようとするとき、「しばらくしばらく~!」と團十郎が現れ、途轍もない強さを見せつけて悪玉を全て蹴散らし、威風堂々と去って行く。「女暫」は、荒事の主役を女方がやるという面白い趣向。設定や脚色もオリジナルの「暫」がほとんど残っている。

主役の巴御前を演じるのは七之助。中村座初演時に玉三郎に習ったというが歌舞伎座では初めて。京都の北野天満宮を舞台に賑やかに登場人物が並び、様式美に満ちてどこか大らかな、江戸荒事の物語が始まる。
  
七之助は鳥屋からの声も張りがあり花道の出も凛として背筋の伸びた美しい姿。花道で、途中に小姓がお茶を運んでくるのも荒事のおおらかな演出を踏襲している。市川宗家にちなんで三枡の紋で登場し、女武道としてバッタバッタと悪役をなぎ倒す爽快な物語。轟坊震斎に松也、女鯰若菜に児太郎、紅梅姫に尾上右近と花形中心の舞台だが、又五郎が重鎮として蒲冠者範頼で扇の要を締める

幕外の引っ込みになった花道で、七之助は素の親戚に戻ってお辞儀し、祖父も喜んでいると思いますと襲名祝いの口上。七代目芝翫の次女が十八代目中村勘三郎に嫁ぎ、その息子が勘九郎と七之助。考えてみると成駒屋三兄弟と同じ祖父を持つ孫同士なのであった。

松緑演じる舞台番松吉が出て来た所で、今度は、衣装が重すぎて大変だから早く楽屋に戻らなければ、こんな大きな太刀は持てないから、あんた運んでよとか、急に女に戻ってのグズグズが始まって観客は大笑い。顔見せ興行でよく演じられた楽屋落ちの楽しい部分。

女方なので六法の引っ込みをどうやればよいか分からないというお約束の楽しい場面。松緑は、先月の「らくだ」でも味があって面白かったが、今回の演目でも、「ここで、中村屋~!と声がかかりますから」などと洒落っ気をもって軽妙に場を盛り上げ、客席を大いに沸かせた。実に面白い演目だよなあ。

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昼は花篭で「襲名御膳」なるものを。基本的には「ほうおう膳」がベースなのではあるが、今回襲名披露の成駒屋一家の好物を献立に織り込んだというもの。一筆箋の記念品付き。成駒屋全員が好物だというドラ焼きもついており、ちょっとカロリー過多かな(笑)

昼の後は「お染 久松 浮塒?(うきねのともどり)」

お染を児太郎、久松を松也が演じる舞踊劇。舞台は向島辺りの隅田川土手。背景には筑波山。 純情な田舎娘の悲恋を描いた「野崎村」の題材にもなった「お染久松」の物語。大店の娘と奉公人との許されざる恋と心中事件は18世紀に大阪を震撼させた実話で、早速浄瑠璃や歌舞伎に取りいれられた。

家出して身の振りかたを考えあぐねる若い二人を、話題のお染久松であると察し、気持を引き立てようとする女猿曳を軽妙かつ流麗に菊之助が踊る。「女暫」も「「お染 久松 浮塒?」も、先代芝翫が好んだ演目だったとのこと。

最後はいよいよ橋之助改め芝翫が主役を演じる「極付 幡随長兵衛(きわめつきばんずいちょうべえ)公平法問諍 」

舞台の序幕は劇中劇。江戸古式の荒事風味を残す興業が舞台中央で行われているが、ここで見物の客と興業側にもめ事が起き、仲裁に新芝翫演じる町奴の頭、幡随院長兵衛が実際の歌舞伎座の客席から颯爽と登場。舞台に上がっ行き、客席に語りかけると、客側もまた江戸時代の小屋で今まで見ていた劇中劇の見物であるような気分になる面白い演出。新芝翫は顔が大きいから舞台では堂々と映える。

この「公平法問諍」の段だけでは、命をやり取りする遺恨というものがイマイチ分からないのではあるが、詳しい事情は分からずとも、敢然として死地に向かう幡随院長兵衛の粋な男伊達を見物する演目であるから、別に深い事情はよいのである(笑)成駒屋三兄弟も子分役で。

雀右衛門演じる女房お時は、夫に従い立てながらも、実は命を捨てに行かせたくないと云ういじらしい本心が垣間見えて、なかなか印象的に成立している。

菊五郎演じる旗本の水野十郎左衛門は、単なる悪党ではなく、武士としての胆力も鷹揚さも兼ね備えた男。しかし自身の面子を立てるために幡随院長兵衛を殺すことになるのだが、止めを刺しながら「殺すには惜しい」と呟くところは、男を知る男の大きさを見せる。

「歌舞伎美人」のインタビューで、橋之助改め芝翫は、「荒削りな男の中の男を演じてゆきたい」と立役としての芝翫復活への抱負を述べている。確かに橋之助改め芝翫は、端正な顔面が大きく、隅どりしても見得を切る場面でも見栄えがして座りは良いのだが、演じる人物に荒削りな大きさを感じた事があまり無いのだよなあ。吉右衛門には何度も人物の大きさを感じたことがあるけれども。まあ、世代的にもちょうど中二階といった所で、なかなか中途半端な所があるのかもしれない。しかし目出度い襲名披露興行初日を十分楽しんだ。来週は夜の部を見物。


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