FC2ブログ
97年から書き続けたweb日記を、このたびブログに移行。
歌舞伎座「二月大歌舞伎」、夜の部
先週の土曜日は、歌舞伎座で「二月大歌舞伎」夜の部を。

IMG_0294.jpg

最初の演目は、播磨屋の一谷嫩軍記 「熊谷陣屋(くまがいじんや)」

幕が開く直前に、大向こうの鶏爺さんが「ウニャワラワ~」「フニャワラワ~」「ウニャワラワ~」と、消えそうなか細い声で幾つもまとめて声をかけた。しばらく声を聞かなかったがまだご健在だったとは。主要な演者の屋号だとは思うものの、何を言っているのかさっぱり分からない。幕が開く前に掛けるのは、大勢が声を出す場面では自分の声が消されてしまうからだろうが、しかしあんな声で大向こう掛けられてもねえ。

「熊谷陣屋」は人気演目で何度もかかるが、今回の吉右衛門は、今まで見た「熊谷陣屋」の中でも、熊谷次郎直実の苦悩と悲劇が一段と真に迫っており、圧巻の出来であった。

主君である義経の、曖昧な意向を忖度し、実子を敵の高貴な若武者、敦盛の身代わりにして殺したが、前線陣地に自分の妻と、恩人であるその敦盛の母がやって来た。しかも義経まで来ている。首実検を無事終わらせ、これが義経の意に沿う事であったのかをどうしても知らねばならない。極限状況を次々にたたみかける、実に良くできた時代物の傑作。

直実の妻相模を魁春、藤の方を雀右衛門が演じる。

実子敦盛を殺した熊谷次郎直実に、切りかからんと刀に手をかけた藤の方。言葉だけで押しとどめようと、直実は敦盛の死を物語るのだが、これは妻の相模に聞かせる、二人の実子、小太郎を斬った父親としての血を吐くような告白でもある。直実の凄まじい苦悩が明瞭に感じられ心を打つ。

そして義経が登場し、両脇を固めた相模と藤の方の、我が子を失った悲劇と相手への深い同情が、首実検の場で一転して交錯する場面。「お騒ぎあるな」、「騒ぐな」とそれぞれを必死で制する場面も口跡朗々と響き実に印象的であった。

魁春、雀右衛門も熟練の演技。御影の弥陀六を演じる歌六も、物語に印象的な陰影を与える。菊之助義経は高貴に成立。重みは無いが、まあ義経はそういうものかもしれない。

「十六年は一昔」の後、幕外の引っ込みになり、戦の音が聞こえると、カッと武将の顔になるが、しかし直ぐに悲嘆に暮れた僧形に戻る所も印象的。吉右衛門で古典を見ると、常にそれまでにない発見がある。その芸を継ぐ息子がいたらなあと思うが、こればかりは仕方がない。娘婿にあれこれ教えてやってもらいたい。

舞台は素晴らしかったのだが、残念だったのは一階客席で、愚図る子供の泣き声が聞こえた事。公共の場では、子供が泣くことを咎めてはいけないと思うが、周りが全員お金を払って観に来ている劇場で、泣く子供を連れてくるのはちょっと話が違う。しかも何度もやらかしたのであるからちょっと信じられなかった。

IMG_0295.jpg IMG_0296.jpg

幕間は「花篭」で「芝居御膳」など。

次は短い舞踊劇「當年祝春駒(あたるとしいわうはるこま)」

祝祭劇として、昔は新年によく上演されたという「寿曽我対面」のダイジェスト版で、派手で簡単に見れて目出度い、なかなかお得な演目。

梅玉が工藤祐経。鷹狩りの場で討たれてやろうと兄弟に手形を渡してさらばさらば。鷹揚で高貴な殿様を目出度く演じるのはお手の物。

尾上左近は、以前、「蘭平物狂」で観た時よりずっと大きくなって居た。そうか、もう中学生なのか。歌舞伎役者としては、子役でもない、大人でもない微妙な年ごろ。イヤホンガイド解説によると、追善なんだから出したらと梅玉に言われたそうであるが。

なんとなく、顔立ちは父親より爺様尾上辰之助に似ているようにも思える。歌舞伎では隔世遺伝は結構ある気がするなあ。舞踊もなかなか大きく、しっかりしている。ただ発声はちょっと元気が無いかな。十郎は錦之助、大磯の虎に米吉。

幕間のイヤホンガイドのインタビュー。当代松緑は、息子は祖父と父からの預かりもので、立派に歌舞伎役者にするのが自分の責任と述べていた。まあ本人の意志もあろうから無理してはいけないが、歌舞伎役者の伝統が続くと良いですな。

最後の演目は、初世尾上辰之助三十三回忌追善狂言、「名月八幡祭(めいげつはちまんまつり)」

尾上辰之助と昔この演目で共演した仁左衛門と玉三郎が、再び同じ役で息子の当代松緑に付き合うという豪華な追善狂言。この演目は同じ松緑で17年の6月にも見ている。

縮屋新助の、思い詰める生真面目な一途さと陥って行く狂気は、どちらも松緑のニンにある。実に印象的な新助になった。仁左衛門の船頭三次は、色気あるヒモのクズっぷりが素晴らしく良い。玉三郎とのデレデレも濃厚。

粋で気風が良く情に厚い深川の芸者がこの舞台のもう一つの見所。男勝りだが、好きな男には徹底的に尽くす。悪気は無いのだが、考えなく行動するので、廻りを引きずり回す、いわばファム・ファタール。

玉三郎は実に美しく新助を破滅に追い込む美代吉を演じている。ただ、若干、辰巳芸者の粋と張りにちょっと欠けた印象が無いでもない。年齢というよりも一時的に体調が悪いのかな。

大詰めの殺し。本水は無く霧で代用。舞台の本水というのは、温水器がついているとも思えないので、冬場にやると水温が低く、修験者の冬の滝行のようになって役者がやってられないのではないかな。温水を使うと冬場は湿度が低いから湯気が出るだろうし。やはり背景は深川八幡、夏の大祭だし、一種のサイコ・ホラーだから、夏場のほうが良いんだよね。満月はちゃんと出た。

狂気に陥った大詰め、担がれて新助が花道を去る場面。前回の松緑は、上体を起こしたまま、ダッハッハと単に笑いながら去ったのだが、今回は、より動作も声も複雑になり、陥った狂気の闇が深い印象を受けた。

どの演目も見どころあり、実によい観劇であった。夜の部はもう一回くらい観に行きたいものだなあ。

IMG_0293.jpg

関連記事
スポンサーサイト



コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する