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97年から書き続けたweb日記を、このたびブログに移行。
新作歌舞伎「風の谷のナウシカ」を観た。
先週末は、新橋演舞場での新作歌舞伎「風の谷のナウシカ」観劇。

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アニメ化されたのは原作でいうと2巻の途中まで。しかし、この新作歌舞伎は、昼夜通しで宮崎駿作の漫画原作7巻全てを歌舞伎化して上演しようという意欲的な試み。同じ日に通しで見るのが分かりやすいとは思うものの、一日中劇場というのも疲れるので、土曜日に昼の部、日曜に夜の部と分割して見物することにした。

しかし主演でナウシカを演じる菊之助は前の週の日曜、昼の部の終盤近く、トリウマのカイに乗って花道を下がる場面で落馬して左肘を亀裂骨折。日曜夜の部は休演となり、月曜から復帰したものの、一部演出を変更して上演しているとのお知らせ。メーヴェに乗った宙乗りなどは恐らく安全面を考えて中止にしたのだろう。

さて土曜日昼の部。新橋演舞場は偶にしか来ないので、コインロッカーの位置や売店、トイレ、階段の配置など、いまいち頭に入っていないので動線が良く分からない。まず最初に食事予約の支払をしてから、館内を時間つぶしにウロウロ。共有スペースは歌舞伎座よりも狭いし混雑するし、地下以外はトイレもちょっと見劣りするね。

まず尾上右近が口上に現れ、ナウシカの世界観を簡潔に説明。紗のスクリーンに「風の谷のナウシカ」とプロジェクションされると、観客からは大きな拍手が。以下では、土曜、日曜と続けて観劇した2日分の感想を項目ごとにまとめて。

(引幕)

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口上にもこの引幕が使われる。産業文明の高度な発展、命をも自由に操る科学。そこから生まれた巨神兵による火の七日間と世界の終末。腐海に覆われた世界と蟲たち。そして残された地で暮らす人類の黄昏。青き衣を着てやがて野に降り立つ運命の救世主。「ナウシカ」の世界観を表したこの引幕は、実によく出来ている。

昼の部、一幕目の切りでは、この特別引幕が途中で引っかかって閉まらないハプニング発生。しかしスタッフもプロ。何事もなかったように緞帳が下りてきて幕間に。

(ストーリー)

数日前から原作本を少しずつ再読していたので、ストーリーはきちんと追える。アニメ版のストーリーが序幕で終了したスピードにはびっくり。昼の部で原作の第三巻まで終わった。

原作にはほぼ忠実。枝葉のエピソードは、かなり刈り込まれ、人物の行動動機は原作よりもずっと分かりやすく、ストーリーが明瞭になっている。歌舞伎化でストーリーが簡潔になったのは事実だが、もともと、漫画の原作そのものが読者にストーリーや人物の動機を説明する事にあまり熱心ではなく、宮崎駿が描きたい事だけを好きなだけ描き込んでいるので冗長で解りづらい部分がある。今回の歌舞伎版ナウシカの筋書を読んで、原作のストーリーが初めて明瞭に頭に入った気がする。

(セット)

舞台の冒頭、セットやプロジェクション、黒子によって飛び回る蟲たちによって歌舞伎の舞台に再現された腐海には感嘆。よくできている。巨神兵や王蟲についてもスケールの大きなセットやプロジェクション、引幕などにより、よく考えられていた。空の場面が少ないのは恐らく菊之助怪我の影響で演出を変更したからではないか。

戦火に逃げ惑う人々は、歌舞伎でいう町人風。劇中のそれぞれの民族の衣装も、勿論歌舞伎流なのだが、きちんと切り分けがなされて、はっきり分かるようになっている。飛行艇の中は、まるで長屋のような引き戸のあるセットで、ある意味、歌舞伎情緒も満載で和むなあ(笑)

(配役)

「阿弖流為」でも七之助は素晴らしかったが、本作でも、七之助によって、原作に描かれたクシャナ殿下が、そのまま舞台上に顕現した。勇猛果敢、美しい女武人で「トルメキアの白い魔女」と称される姫君。知略にも富むが、戦いでは常に先陣に立ち、部下思いで、鍛え上げた自らの軍の人心を見事に掌握する勇将。そして王位を巡っては、父王や軟弱な兄王たちの謀略で、死地に敢えて向かわされるという修羅を生きる皇女。

「風の谷のナウシカ」原作の最初の部分では、ナウシカとクシャナ姫は比較的対照的に描かれている。光と影、善と悪、正と邪、柔と剛、菩薩と修羅。しかし原作の展開が進むにつれ、お互いの影響で、二人の立ち位置は絡み合い、次第に融合する。この展開でのクシャナ姫も七之助は見事に演じている。

セパ殿がクシャナ姫を守って攻撃を一身に受け絶命する際、「血がむしろそなたを清めた」という原作の台詞がそのままに。覇道ではなく王道を目指せとセパ殿が諭す。

陰影のハッキリしたクシャナ姫よりも、演じるにはナウシカのほうが大変な気がするが、菊之助も全編を背負う主人公として印象的に成立している。怪我さえなけばもっと舞台の上で躍動、活躍できただろうと、そこが残念。

神聖皇帝の兄弟を両方演じる巳之助も健闘。庭の主、芝のぶも声を使い分けてなかなか印象的。大詰、墓の主の精とオーマの精が紅白の毛振りをすると、なんだか歌舞伎的な大団円に落ち着く。毛振り大奮闘は右近と歌昇。

墓の主は、なんと大播磨吉右衛門が声の出演。菊之助が「お義父さん、お願い致します」と頼んだのだろうなあ。娘婿にそう頼まれると、義理の親父としても張り切ると(笑)これまた迫力あり。

配役が発表される下馬評では、「虫博士」市川中車が王蟲だという冗談が盛んに聞かれたが、王蟲の声で中車が本当に出演したのには笑った。

片岡亀蔵のクロトワは、はまり役。巳之助でもはまったと思うが、こちらは神聖皇帝、皇弟ミラルパと皇兄ナムリス。一部絡みがあるのだが、タンクに入った弟は多分スクリーンの映像だったんだな。

尾上松也のユパ様も最初は違和感あるかと思ったが、きちんと成立している。米吉のケチャは、まさに原作のあの通りと思うほどよく再現していて感心した。

新作ではあるが、又五郎のマニ僧正 歌六のブ王は堂々たる迫力で舞台に重みを与えた。夜の部では全員が舞台に出て人物紹介。昼の部も夜の部も、引幕が閉まった後でカーテンコールがあり、登場人物が舞台に揃ってご挨拶。

(菊之助の怪我とカットされたシーン)

菊之助は不慮の事故から不屈の意志で復帰。舞台をみると、手指は動くし左手を上げる事もできる。しかしよく見ると肘を曲げる事はできないようだった。

キツネリス、テトとの出会い。右肩に乗った怯えたテトに噛まれるのは、原作でも事前に公開された稽古映像でも左手。しかし、今日の舞台ではテトが左肩に乗って右手を噛む。左手を肩まで曲げることができないのでは。ギブスで肘を固定しているのだろうか。痛々しいが、それでも舞台に上がる役者根性には感嘆。

当初の上演時間と比較すると、昼の部で20分、夜の部で10分程度短くなっている。慣れて来て早くなった部分もあろうが、大部分は菊之助の怪我による演出変更によるものだろう。

事前の公開映像にあった、メーヴェ関係の宙乗りや、機械仕掛けの上のメーヴェに乗って左右に移動する場面は、この日は無かった。筋書の配役を見ると「遠見のナウシカ」として子役の名前が記載されているが、このシーンも無かったような。「遠見」とは子役を使って役者が遠くに居るように見せる歌舞伎独特の手法。おそらく他の空中シーンとの絡みで中止になったのだろうか。全般的に空中シーンは少なかった。

トリウマもが大勢出る戦闘シーンも、怪我の前の舞台ではあったそうだがこれもカット。瀕死のトリウマに乗って戦場から脱出するシーンで事故が起こったのだが、トリウマは乗るのではなく引いて登場に変更。

このシーンは原作で実に印象的。クシャナ姫の戦に、お前も綺麗事だけではなく手を汚せと言われ、戦陣に加わるナウシカ。敵の銃弾で瀕死の重傷を負ったトリウマ、カイが鬼神の如き力を振り絞り、ナウシカを乗せて自陣まで戻って息絶える。カイの首を抱いて泣き崩れるナウシカに騎兵隊長は「このような馬に出会う事を我々騎兵はいつも夢見ています」、「馬にとってもあなたは守りがいのある主人だったのだ」とナウシカを慰めるのだが、残念ながらこのシーンは割愛されていた。

しかし、トリウマのあの頭の大きな着ぐるみを着て人を背中に乗せるのは常人には至難の技。若いプロレスラーの卵でもバイトに雇わないと。

筋書きの夜の部、二幕目には「所作事」とあり、伴奏の長唄連中も記載されているが、これもおそらくカットされている。左腕の動きが制約されていては舞踊はちょっと厳しい。

「ナウシカ」の世界を再現しようと、様々な趣向を凝らした演出のうち、かなりの部分が怪我の後で中止に。せっかく準備を重ねたのに菊之助も実に無念だったろう。まあ役者と関係者の安全第一が一番だが。菊之助からは怪我の気配は明確には見えなかったが肘や腕全体も腫れているのではないか。それでも連日舞台に立つ。菊之助の役者魂には心打たれる。

(音楽)

アニメから取り入れられた曲を三味線で演奏したり、義太夫での語りがあったり、音曲には歌舞伎風味が満載。蟲の大群に襲われた際、死を覚悟したクシャナ姫が、母の記憶に残る子守歌を歌いだす。アニメで使われた有名なメロディに乗せて。この場面は原作にはちょっと出てくるのだが、実際に歌ってみせるのは舞台でしかできない演出。これも感心した。

(幕間)

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値段も高い事もあるが、歌舞伎座の「花篭」食堂よりも、新橋演舞場の食堂のほうが若干、料理は良い印象。「雪月花」で食した昼夜の弁当では、刺身はなかなか質が良かった。あと、冷酒を頼むと片口に並々と注いでくる(笑) ただ、高い方の幕の内は、たしかに豪華なのだけれども、量が多すぎて全部は要らないなあ。

(大向こう)

新作歌舞伎は大向こうはあまり無いものだが、土曜日昼の部は大向こうが結構多く盛んに声がかかる。半面日曜の夜は少ない。しかし夜は鶏爺さんがか細く鳴いていたように思ったが。

(まとめ)

「ナウシカ歌舞伎」は、原作の世界観を壊すことなくストーリーを整理し、原作台詞の優れたエッセンスを抽出して、きちんと歌舞伎として成立させたところに感心。菊之助、七之助を初め、役者陣も大健闘で素晴らしかった。しかし菊之助が万全な状態で、予定通りの演出で見れたならもっと凄かっただろう。勿論、一番無念に思っているのは菊之助本人だろうけれども。是非、早期の再演を望みたい。12月18日の情報では、宙乗り演出が復活したらしい。映像には残してほしい。

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