97年から書き続けたweb日記を、このたびブログに移行。
「No Country for Old Men」


以前、「There will be blood」のDVDを、この映画と間違えてWal-Martで購入してしまったのだが、これがなかなか面白かった。しかし、肝心の本作をずっと見逃していたことを思い出して、Amazon.comに発注。

1980年のテキサスが舞台。麻薬取引にまつわる大金を狩りの途中で偶然見つけ、それを持ち逃げした男、彼を追う殺し屋、犯罪に立ち向かう保安官を巡る、クライム・スリラー。

映画本体も、アカデミー賞の作品賞、監督賞を受賞したのだが、殺し屋アントン・シガーを演じたハビエル・バルデムが助演男優賞を受賞。この演技が凄い。

たまたま立ち寄ったガス・ステーション。コイン・トスで相手を殺すかどうか決める場面など、この男が、暴力と死を体現し、他人の運命を変えてゆく、招かれざる暗黒の司祭であることがはっきりわかる、実に緊迫した名シーン。髪型や殺人に使われる屠蓄用の銃など、細かいディテイルも実に印象的で、この殺し屋役は実に印象的に成立している。

映画中には、血と暴力が、満面に影を落とす。しかし、映画的なストーリーに着目するなら、主要な人物達の物語は、奇妙に交差せず、まるで途中で放り投げられたかのよう。ありきたりのスリラーにあるような、分かりやすいカタルシスは存在しない。それをあえて与えないよう、意図的に「語りそこねている」ような奇妙な印象さえ受ける。

トミー・リー・ジョーンズ演じるのは、警察一家に生まれたベル保安官。正義を体現する役であるが、映画中では常に無力。彼が現場に立つのは、すでに人が殺された後。血と暴力の現場に立ち尽くすだけの正義に何の意味があるのか。

同じく警官を引退した叔父が語る、This country is hard on peopleという述懐は、砂を噛むように、ベル保安官の胸にも響き渡る、正義の無力に対する嘆息でもある。

犯罪に対する戦いに倦み、自らの老いを悟って引退する彼が見た夢で唐突に映画は終わる。不条理に見える殺し屋シガーが繰り返す殺人に循環する不思議な条理、そして冷酷な血と暴力をつないで、さらに回り続ける運命の輪。アメリカの闇と虚無。エンターテインメントとして成功かと問われると疑問だが、緊張感あるショットと、俳優陣の素晴らしい演技によって、映画全体は、実に重厚で不思議な存在感を持って確かに成立している。

「No Country for Old Men」 とは、「年老いた者が住む場所などどこにもない」、というような意味。しかし、この邦題を「ノーカントリー」と略して愧じるところがない、配給会社宣伝屋のセンスには、ただ呆れるしかないのだが。

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