97年から書き続けたweb日記を、このたびブログに移行。
「すし屋の常識・非常識」
「すし屋の常識・非常識 (朝日新書)」読了。著者は、元朝日新聞記者で、大学教授も勤めた文藝ジャーナリスト。

第一章「すし屋がたどってきた道」は、寿司の歴史を総括。屋台から現在の営業形態までの歴史については、基本的に他の本で読んだ事も多く、目立った新しい知見はなし。しかし、著者が採集して、随所に挿入した、その時代の小説やエッセイにあらわれた寿司についてのエピソードが面白い。魯山人や池波正太郎など、知っていた文章も勿論あるが、作家、武田百合子が歌舞伎座前の寿司屋に娘と入り、「嵐が吹き荒れるように食べた」と寿司への陶酔を描いた文章など、実に興味深く読んだ。

寿司種について解説した第二章、寿司屋の営業形態について書いた第三章については、特段珍しい内容は無いものの、大筋においてその通りだなあと同意。どうでもよい細かい話だが、読む限りでは、この人はスミイカには握りの種として関心が無いような。握りには一番合うと思うけどなあ。

随所で触れられる、寿司屋での作法についても納得。手でつまむか箸か、食べる順番はどうか、酒飲むかお茶か、つまみを貰うか初手から握りか。これらについては、それぞれの客が好きにやればよいことで、「これが正当」とか、「これぞ粋」と力みかえる事こそがおかしい。本書に書かれていることは、大筋に置いて極めて真っ当な事であると思う。

寿司に関する本も、手当たり次第あれこれ読んだけれど、個別の寿司屋の紹介にあまり重きを置かず、寿司の歴史と寿司種、楽しみ方を総括する、ほどよくまとまった良書ではないか。

すし屋に時たまいる馬齢を重ねた嫌味な客にはならないよう自戒したつもりだが、もしそう感じられたならば、日本のすし文化の継承と発展を願う著者の本意を汲んでご寛恕たまわりたい。
と著者後書きにある。著者自身が、そろそろ70歳。寿司屋通いも年季が入っているし、今まで散々嫌な客とも隣り合わせたのだろう。そんなところからの自戒の念か。

しかし、一点、134ページで、「近頃売り出し中の銀座のすし屋「S」がまだ東京の西部にあった頃(中略)この蒸しアワビの出し方をみて、店主のすしに対する志の貧困さと下品な育ちを感じた。以来訪れてはいない」と記載している部分は、あまりいただけない。

つまみに大きなアワビを4分の1に切ってゴロリと出してきた、その切りつけが大きすぎるというのだ。しかし、アワビ一片の大きさで、店主の育ちまで公の著書においてうんぬんするのは、それこそ「馬齢を重ねた嫌味な客」よりももっとタチの悪い客ではなかろうか。ひょっとして、ウニの出し方も気に入らなかったとか(笑)

年寄りは突然怒ったりするから、原因はよく分からぬが、ひょっとすると、ご本人が入れ歯だったから大いに気に障ったとか(笑)<オイ。店名はイニシャルにしてるが、この記述では、寿司好きなら、店名は誰でも分かってしまう。アワビの大きさで志や育ちまで悪し様に言われては、店主も実に気の毒だと思う次第。

そう思って本書を再度読み返すと、隠し切れない「上から目線」がハナにつく雰囲気も散見されるような(笑)。まあ、元新聞記者の本には、時として感じることではあるのだが。彼らはそもそもが偉そうだからなあ。

はたして寿司屋カウンタでのこの人は、実際のところどうなのかについて若干の興味があるところ。後書きに書かれた、「著者がよく通う店」には、残念ながらまったくご縁が無く、今後も行くことはなさそうだが。

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コメント
この記事へのコメント
おひさしぶりです。日本で時々鮨屋でご一緒させていただいた者です。
この本、私も似たように思いました。
その割りに、岡本かの子の「鮨」の発表年が「昭和16年」になっているというミスがありました。岡本は昭和14年2月に亡くなっていますから、16年にはどうしたって本人が発表できるわけはないんですね。ちょっとそのあたりが、単に年号を間違えたというだけでなく、テクニックを使った書き方をして間違えるという、
「志の貧困さと下品な育ち」を感じてしまいました。(笑)
笑っちゃいかんか。
2009/06/03(水) 22:35:02 | URL | ライデン #vXeIqmFk[ 編集]
>ライデン様

どうもご無沙汰しております。お元気で寿司屋通われてるでしょうか。

寿司屋のカウンタというのは、人間性がはからずも露呈する場合が多々ありますので、もって他山の石として自戒を重ねまして、「馬齢を重ねた嫌味な客」にならぬよう、精進したいと考える次第でございます(笑)

寿司屋で我が物顔でワイン飲んでる客に、割と「馬齢系」の嫌なのが多い気もしますが。<コラ。
2009/06/04(木) 02:24:21 | URL | Y. Horiucci #-[ 編集]
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2012/07/25(水) 09:53:41 | | #[ 編集]
まあ、寿司屋でバイトするのに余計な寿司の常識は必要ありませんから、店の親方や女将さんの言うことをよく聞いて真面目に働くだけでよいのではないでしょうか。
2012/07/29(日) 19:00:05 | URL |  Y. Horiucci #-[ 編集]
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