97年から書き続けたweb日記を、このたびブログに移行。
「1984」~そう、なんて哀しい再会
どこかで、ジョージ・オーウェルの「1984」の新訳が文庫で出たという広告を見た。昔のハヤカワ文庫旧版は持ってるのだが、日本に置いた荷物の中。Amazonで検索して、「一九八四年[新訳版]」を発見。早速に発注。

この本を最初に読んだのはまだ学生だった遠い昔。しかし、読んだ時の衝撃は、今でもはっきりと覚えている。

反ユートピア小説の名作として、昔から本の題名は知ってたが、買うきっかけになったのは、デヴィッド・ボウイのアルバム、「Diamond Dogs」を聞いてから。「1984」や「Big Brother」という曲が、この小説をモチーフとしていると知り、文庫版を買い求めたのであった。

オーウェルの原作を読んでから、「Diamond Dogs」を聞き返すと、上記2曲以外にも、「Sweet Thing」、「Candidate」、「We Are The Dead」などの曲にも、「1984」の暗い世界が背景として投影され、影響を与えているように思える。このあたりが、実に興味深かった。表題作の「Diamond Dogs」にしても、描いているのは、やはり近未来、反ユートピア世界。

このアルバムは、昔はLPで購入(古いなあ(笑))、CDで買いなおした後、現在は、iTuneでダウンロードして、今でもiPodに入っている。

原作が書かれたのは1948年だが、その当時は遠い未来であった1984年自体が、すっかり昔となってしまった。そういえば、村上春樹の「1Q84」は、このオーウェルの作品を意識したような題名だが、やはり何か関連あるのだろうか。こちらも一度読んでみなければいけないのだが、ベストセラーになった本は、なぜか買いたくなくなるのだよなあ。

オーウェルの「1984」が描くのは、核戦争の後、世界が3大超大国に分かれ、戦争を繰り返している近未来。「Big Brother(偉大なる兄弟)」という神格化された指導者が率いる党の下で、双方向スクリーンによって日常生活の言動全てを監視される人々。虚偽の記録で次々と過去の歴史を捏造してゆく「真理省」に働くウィンストン・スミスが、ふとしたことからある女性と恋に落ち、そして反体制運動へとのめりこんでゆく。しかし、思想警察に逮捕され、徹底的な拷問と洗脳に遭うという物語。

(この小説はもはや古典であり、これ以降の記述がネタバレに当たるとは思わないが、もしも気になる人は、以下は読まないほうがよいかもしれないので、念のため)






強大な力によって人間の心をも蹂躙する管理国家の恐ろしさを描いているのだが、同時にこれは、管理社会からの出口を求めて反抗した男女の、一種の哀しいラブ・ストーリーでもある。

徹底的な拷問を受けた後でさえ、「私は彼女を裏切っていない」という主人公の告白に、洗脳者は、静かにそれはそうだと認める。拷問に耐えかねて、彼女に関する情報は洗いざらいしゃべってはいたが、心の奥底には、彼女への愛がまだ残っている。「Big Brother」を真に愛させるためには、それも心から取り去らねばならない。恐ろしい洗脳者は、それをきちんと把握していたのだ。

思想犯全てが、最後に送り込まれる「101号室」。凄まじい拷問の後、釈放された2人は、偶然に街角で会う。

探してみると、ネットに、英文原作がアップされているのを見つけ、当該部分を読みふける。旧版の翻訳も実によかったが、新訳ではこのあたりはどう訳されているだろうか。


'I betrayed you,' she said baldly.
'I betrayed you,' he said.

She gave him another quick look of dislike.

'Sometimes,' she said, 'they threaten you with something -- something you can't stand up to, can't even think about. And then you say, "Don't do it to me, do it to somebody else, do it to So-and-so." And perhaps you might pretend, afterwards, that it was only a trick and that you just said it to make them stop and didn't really mean it. But that isn't true. At the time when it happens you do mean it. You think there's no other way of saving yourself, and you're quite ready to save yourself that way. You want it to happen to the other person. You don't give a damn what they suffer. All you care about is yourself.'

'All you care about is yourself,' he echoed.

'And after that, you don't feel the same towards the other person any longer.'
'No,' he said, 'you don't feel the same.'



「そうなった後では、もう、その人に、同じ感情は持てなくなるの」
「そう、もう持てない」

徹底的な拷問と洗脳のテクニックによって、跡形もないほど脳内から焼き尽くされた、お互いへの恋愛感情。かつては愛し合った二人が顔を合わせても、そこには何の心も通わない。空っぽになった心には、ただ、相手を裏切ったという感覚だけが残っている。こんなにも哀しい、昔の恋人との再会シーンがあるだろうか。

そして、銃弾が主人公の頭を貫く時、最後に彼の心によぎる歓喜。

He loved Big Brother

心が凍りつく戦慄のラスト。オーウェルは、この一作だけで文学史に残る価値がある。恐ろしくも素晴らしい、古今の名作。もしも、読んだことが無い人がいるのなら、是非一読を勧めたい。

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