97年から書き続けたweb日記を、このたびブログに移行。
「代替医療のトリック」
「代替医療のトリック」読了。

共著者の一人サイモン・シンには、「フェルマーの最終定理」という著作あり。証明不能と思われた数学上の難問が見事解決される道を、まるで壮大な歴史小説のように描いて、実に印象的な本だった。本作は、代替医療研究の専門家と組んで、ホメオパシー、鍼、カイロプラクティック、ハーブ療法など、いわゆる正統派の西洋医学以外の「代替医療」に科学的な根拠があるのかを評価した本。

ギリシャ医学では万病に効くと考えられ、ずっと続けられてきた瀉血療法(患者の血を抜く治療)が、どのようにして「効果がない」と証明され、正当な医療から19世紀に外されていったか、壊血病に対する治療法がいかに確立されていったか等を題材に、臨床における科学的な比較対照試験の重要性を説く第一章がまず面白い。

代替医療の効能を測定する際に必ず認識しておかなければならないのが、有名な偽薬効果、「プラセボ効果」とも呼ばれる。薬の臨床試験においては、二重盲検法(ダブル・ブラインド・テスト)が用いられ、ランダムに選ばれた比較対象群には、まったく効能が無い「偽薬」が投与されるが、偽薬を投与された群の患者にも病状が改善される例が見られる事がある。医者から新たな治験として新薬が投与されたと考えるだけで現れる不思議な効果。著者達は有名な代替医療について、そのほとんどの効能が、この「プラセボ効果」と呼べる範疇のものであることを明らかにしてゆく。

鍼治療については、WHOがかなりの分野で鍼の効能を認めた発表をしているのだが、水準の低い臨床試験も対象に多数含めており、特に中国からの報告が多数採用されていることが問題なのだと著者達は解説する。鍼治療は「偽薬」を用いた盲検が困難な分野であったが、近年、まるで鍼を刺したかのように見えるが体内には挿入されていない「偽鍼」が開発されており、これによる「盲検」研究が行われている。(ただし施術者はこれが偽鍼であることを知っているために「二重盲検」にはなっていないのだが)このような最新の結果によると、鍼治療は、一部の吐き気や痛みには若干効果が見られるものの、それ以外には、プラセボ効果を超える効果は証明されていないとのこと。

30年以上前に衝撃的に喧伝された中国での鍼麻酔による手術も、鎮痛剤の使用や浸潤法による局所麻酔の投与が明らかだと著者達は述べる。これもやはり、中国が米日と国交回復した際の、国粋主義的プロパガンダだったのだろうか。確かに、最近は、鍼麻酔で開腹手術したなどとの話は聞いたことがない。しかし、鍼というのは中国四千年の伝統を持つ医術で、日本にも鍼灸師が大勢いるのだが、ほとんと効能が証明できてないというのは、ちょっと衝撃的な意見である。

第三章の「ホメオパシー」に関しては、怪しげなレメディーと称する素材を、ほとんど一分子も残ってないところまで希釈して用いるという、昔から「トンデモ本」ではよく取り上げられる代替医療。水に残ったレメディの記憶によって万病に効くというものだが、これこそまさに「プラセボ効果」の代名詞のようなお話。この療法にまったく効能が無いという著者の主張は、そうでしょうなあ、と実に納得行くもの(笑)。

かつて、明らかにアレルゲンが残っていないほど希釈された溶液に対して白血球が反応するという論文が「ネイチャー」に掲載され、ホメオパシーの証明だと騒がれたことがある。しかし、有名な懐疑主義者のマジシャン、ジェイムズ・ランディも参加した追試によって、実験者自身がどの試験管に希釈溶液が入っているかを知っており、実験が盲検化されていないことが明らかになった。実験者がどの試験管が希釈溶液かを分からないようにした実験では、効果が消えてしまう。白血球反応を判定する実験者にバイアスがかかってたのであった。このエピソードは、厳密な実験の設計が、いかに重要であるかを語る実に興味深い部分。

第四章の「カイロプラクティック」で著者達が明らかにするのは、一部の腰痛に関してはわずかな効能がありそうだが、それ以外の効能には何の科学的証明も無いというもの。カイロプラクティックは、アメリカでは実に一般的で、一部の痛みに関しては保険の給付対象にもなっているのだが、これはちょっと衝撃的な結論。

まあ、確かに、背骨の歪みから万病が派生しており、背骨をアジャストすることですべての病気が直るという、いわゆる「ストレート派」の主張は、ちょっとついてゆけない部分があり、「トンデモ系」に属する。乱暴な手技によってかえって怪我をする可能性もあり、やはり対象を限定して、正当医学の補完として割り切って向き合うべきなのだろう。

各章では、それぞれの代替医療の発祥と発展、そしてそれに対する科学的臨床研究の経緯が分かりやすく、またドラマティックに述べられており、代替医療の臨床研究に関する科学史として、読んでいて飽きない。代替医療と呼ばれるものの効果が、ほとんどプラセボ効果によるという推論は、逆に考えると、実際には人間は、信じるだけである程度の自己治癒ができる不思議な能力があるということなのかもしれないが。しかし、実に面白い本であった。

まあ、カイロプラクターや鍼灸師にとっては、面白いどころの話ではなく、営業妨害のとんでもない本ということになるのだろうが。



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